『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

伝えること と 伝わること

先日、発達センターでのお仕事で、「伝える」ことは「伝わる」ことではない、ということを改めて感じました。こういうことはずっと思ってきたことなのですが、発達センターの子ども達に限らず、相手に伝わるように伝えることって難しいですね。

子ども達は発達にさまざまな特徴があるので、クラスの一斉指示というのはなかなか入りにくいです。見続けることも難しい子ども達もいるので、こちらが工夫せざる負えない。「伝えた」と思っても、全然伝わっていなかったり。伝わっていなくて、とっても混乱してしまっている子ども達も中にはいます。

 

そんなことを思っていた翌日、聞こえない子を育てているあるお母さんからメールをいただきました。このお母さんとはお子さんが赤ちゃんの時からのお付き合いで、「どうしたらこの子にとって、より良いコミュニケーションがとれるか」を一緒によく相談したり、話し合ったりしてきた思い出があります。その内容が「伝えること と 伝わること」でした。

 

<手話はもちろん大切ですし、早い段階で聴者の親は習得して子どもとのコミュニケーションに使って欲しいのですが、手話単語を覚えて満足してしまわないように気をつけて欲しいのです。・・・大事なのは表情なんです。絵カード作って、手話で表現してるから、ほら大丈夫でしょ?と思ったら大間違い。ちゃんと子どもの言いたいことを汲み取る力が大切で、ということは、親自身も伝わる表現力が大切なのです。絵カードももちろん必要なときもありますが、そこに頼って絵カードと子どもの手しか見てない、そんな状況にならないように>とのこと。

 

以前、やはり聞こえない子を育てているお母さんがこうお話ししてくれました。

「手話ができるだけでは十分なコミュニケーションを取ることはできない。大事なのは子どもといかに共感しあえるか、です。」

 

聞こえる・聞こえない、発達に問題がある・ない、に関わらず、どんな人、どんな子どもとのコミュニケーションにおいても、自分の伝えたいことを一方的に伝えるのではなく、どんな風に伝えたら相手に伝わるのか、相手の立場に立ったコミュニケーションって大事ですね。

 

さて、話は変わり、私の知り合いのイスラエルに住む、ポーランドユダヤ人の作家、イリートから日本語に訳された彼女の本が送られてきました。彼女は11歳のときにホロコーストから運よく逃げられ生き残りましたが、彼女の家族は全員亡くなりました。ホロコーストの生き残りの方の話を集めた短編集。読んでいて胸が張り裂けそうになりました。彼女の強さは一体どこからきているのだろう。彼女にこれからもたくさんの幸福がありますように。

 

ことばの相談室 ハート&コミュニケーション

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最近、思ったこと!

 3歳になる聞こえないお子さん達の発達検査をとっていて、ふと考えたら、これってすごいことじゃない!と気づきました。

 最近、子どもたちが当たり前のように答えられるから、なんだか当たり前のように思ってしまっていたのですが、以前と比べると、実はすっごい変化が起こっている、ということがわかり、もうなんだかビックリというか、感激しました。

 発達検査はもちろん聞こえるお子さん用に作られたものなのですが、ことばの部分は手話を使ってとっています。その課題の中に「これなあに?」と絵カードを見せて、答えてもらうものがあります。以前は、「これなあに?」と質問すると、ほとんどのお子さんが「これなあに?」とオウム返しだったり、その質問の意味がわからなくて「?」という感じで固まってしまう場合が多かったのですが、ちゃんと答えられる! 名前も指文字を使って答えられる子もいるし、性別もわかる。「これなあに?」は簡単にクリアーして、もっと難しい質問にも答えられるお子さんもいるからビックリ!ことばの力が年齢相応に育っているお子さんが多いのです。

 新生児スクリーニングを受けているお子さんたちがほとんどになり、聞こえないとわかり、どうやって聞こえない我が子に向き合おう、どうやってコミュニケーションをとっていったらいいのかを考え、子どもが0歳のうちに両親でできるだけ手話を習得し、子どもが1歳になる頃には親御さんが上手に手話を使えるようになっていることが多くなりました。手話言語条例などで手話が身近となり、手話が言語だと認められ、それらが親御さんたちの意識に入っているのだと思います。1日でも早く我が子と通じ合うために、ご両親で手話言語を学び、それを使って毎日毎日子どもと丁寧にコミュニケーションをしてきた結果です。

 

今年も、ろう・難聴研究会の大会が7月28日と29日に行われます。

場所は桜上水日本大学文理学部です。

1日目:立川ろう学校幼稚部より報告(庄崎真紀)

    ろう児支援のあり方について(てみみん阿部光佑・ひとつ星池田光太郎・あ〜とん柳匡裕)

2日目:人工内耳について(帝京大学ST斎藤宏)

    情報保障について(坂戸ろうなど)

詳しくは、ろう・難聴研究会のホームページをご覧ください。

 

 

 庭のプラムの初収穫。すっごく甘い!

 

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三つ子の魂百まで

数年前からカウンセリングの勉強をしています。ある先生が開いている勉強会に参加してきました。いろんなケースを例に出し、そのケースの小さい頃からの育った環境などを分析し、どうしてこんなことにつながっていってしまったのかを考えてきたりしました。そして、結論!「3つ子の魂100まで」とは本当のことなのだな、と思っています。0歳から3歳(母子分離ができるまで)の安定した親子の愛着関係の構築は、その後のその人の人間関係を決定づけてしまうと言っても過言ではなく、乳幼児期に安定した親子関係を築けた子どもは、その後の人生でどんな難題が起こったとしても自分で解決できる力と自信を持つのです。

そんな大切な時期に、聞こえない・聞こえにくい子どもとのコミュニケーションには手話が必須です。相手は聞こえないのですから。こちらが寄り添うしか方法はありません。

そんなことを考えていたときに、河崎佳子先生が最近お書きになられた論文に出会いました。私と同じ考えでした。河崎先生は、聴覚障害者の心理的な問題や発達についての研究をされている先生です。その一部です。

 

<乳幼児の発達を関係性の展開という視点から捉えると、0歳から3歳代には、子どもに伝わりやすい自然なコミュニケーション手段を用いて母親を代表とする世話者と子どもが、楽しんで豊かにやり取りすることが大切です。ろう児が3歳までを整った手話環境で育つということは、愛着形成にとって重要な人生最初の数年間を、最大限に伝え合える「ことば」を介したかかわりのなかで過ごすということです。・・・つまり、この時期に親子が手話に出会えるかどうかは早期支援の決め手となるのです。

3歳台を迎えるまでの愛着形成の目標は、自分を大切に思って応援してくれる存在を心の中に保ち、困難を乗り越えていくためのエネルギーをもたらす存在として利用できるようになることです。それは、母親を代表とする主たる世話者との情緒的なかかわり合いを内在化する、つまり心の中に保てるようになることで可能となります。聞こえない子どもたちにこの体験がしっかり根づいたなら、家族を拠り所として、健聴社会に出かけていくことができます。>

 

聞こえる・聞こえない・聞こえにくいに関係なく、記憶に残らないくらい小さい頃の育ちは、その子の人格とその後の人生をつくるのです。その頃にどんな関わりを周りの大人がしてあげるのか。それが大切なのです。

 

ハート&コミュニケーションに来てくれている男の子の絵。この色彩。日本的ではない!どちらかというとヨーロッパ的!ピンクは卵だったかな?絵が上手で絵画展に出品されたりしているみたいです。

 

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0.55秒遅れのいま

精神科医中井久夫先生の「こんなとき私はどうしてきたか」という本を読みました。その中にこんな興味深いことが書かれていました。みなさんに紹介しますね。

 

私たちは、いま、思っていることが「いま」だと思っていますが、実はそうではなく、意識にのぼってくるまでに0.55秒たっているのだそうです。0秒の時に思っていることは無意識下にあり、意識にのぼってくるまでに0.55秒かかる。

 

<私たちは、この0.55秒遅れを「現在」と考えているわけですね。いま思いついたと。実際は殺してやりたいと思っていても「まぁ、待てよ」ということなんです。これで我々はなんとか日々を過ごしている。・・・この「待て」がしっかりしているかどうか。これを「良心」といってもいいかもしれません。「意識」と「良心」はヨーロッパで生まれた観念で、あちらではもともと同じ言葉なんですね。・・・私たちは0.55秒ほどの「意識的自己」の内容を、多少のことで揺るがぬほどにしっかりするように努力すればよいのです。>―本より抜粋―

 

私たちはこの0.55秒遅れを「いま」だと思って生きていて、それが「自分のすべて」だと思っているけれど、そうではない。0秒のときの無意識の自己は、たがが緩んだときに夢の中に現れてくるのでしょう。

 

だから、私たちはいまを生きているのではなく、0.55秒遅れを生きている。これがすっごく興味深かった!

 

それから、これは別の本で読んだのですが、たいていの人たちは「時間」というのを連続体で感じることができるけれども、時間の流れをきちんととらえられない、ということもあるのだそうです。だから、「いま」「いま」という時間が何度も何度も襲ってきて、それが非連続体で襲ってくるので、心が安定しない、ということもあるそうです。

 

当たり前に思っていることが、そうではない。「いま」という「時」に安定して向かえるということは、健康である証拠なのだなぁ〜。そんなことを考えた2週間でした。

 

庭のロイヤルサンセット、今年も綺麗に咲きました。それからこのマーガレット。花びらがまるでパステルで色を塗ったみたいになってます。花たちは、きっと0.55秒遅れではない0秒の「いま」を生きてる!

 

 

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唯一の存在

以前、なにかの勉強会で聞いたお話。

昔、ヨーロッパの王様(多分、フリードリヒ大王)がこんな研究をしたそうです。生まれたばかりの赤ちゃんを十数名集め、親元から離してお城で召使いに育てさせたそうです。その赤ちゃん達と親御さん達には本当に気の毒だったのですが、研究熱心な王様は、<一言も話しかけないで育てたら、赤ちゃんの言語発達はどうなるのか?>を調べたかったそうで、とにかく一言も話しかけない、淡々と必要な世話だけする、愛情表現をしない、目を合わせない、スキンシップもしない、を世話係に徹底させ、赤ちゃん達を育てさせ報告させたそうです。赤ちゃん達どうなったと思います? 言語発達の研究どころか、数名を残して全員が亡くなってしまったそうです。

びっくりしてしまう研究ですが、大切なことが明確になっています。とにかく、愛情をかけてもらう、ということが人間の赤ちゃんには必要なこと。淡々と必要最低限な世話だけをすれば良いのかと言うと、そうではないこと。これは、人間だけでなく、動物もそうですね。うちのワンコやニャンコを見ていてもそう思います。愛情をかけてもらうことで、自分はこの世の中に唯一の存在であることを知っていくのでしょう。

私は縁があり、聞こえない・聞こえにくい子ども達や、発達に問題がある子ども達やその親御さんと関わる仕事をしています。その親御さん達に、お子さんとのより良いコミュニケーションを取るための関わり方についてお伝えし、できる限りお子さんの代弁者となり、親御さんにお子さんの特性などについてできる限りお話をし、より良い親子関係が築けるようにと思っています。

でも、私が伝えようとしていることは、それは発達に問題がある・ない、聞こえに問題がある・ない、に関わらず、全ての親に知って欲しいことでもあるのです。どんな風に子どもに接すれば良いのか。どんな風に語りかければ良いのか。そういう子育ての基本。

それに、ちょっといろいろとあってコミュニケーションを取るのが難しいお子さんには、こちらが寄り添うしかないのですものね。

今日も新しい出会いがありました。色んな背景を抱えているお子さんに出会いますが、皆、唯一の存在。そんな尊い存在であるお子さん達の代弁者として、自分のことを説明できないお子さん達に代わって親御さんに理解していただけるようお伝えしました。来室した時は暗〜い感じだったけれど、帰るときには3人で手をつなぎながら帰る後ろ姿を見て安心しました。良かった!

庭のプラムの木に初めて実がなりました。小さいけれど、発見したときはすっごく嬉しくて身震いしました! どれだかわかります?真ん中の小さな緑の実です。

 

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発達には順序がある!

<発達には順序がある。> このことを理解していただけるといいのになぁ〜、そうすれば親子ともどももっと楽に過ごせるのになぁ〜、と思うことがあります。どうしたら理解していただけるのかな、といつも試行錯誤で親御さんにお子さんのことをもっと理解していただけるように話をするのですが、なかなか難しい時もあります。

<発達には順序があり、その子その子のペースがある>

例えば、まだ指差しも上手にできていない子に音声言語での表出を求めることはやはり難しい。親として焦る気持ちは理解できるのですが、王道はありません。日々できることを家庭でも取り入れて少しずつやってみる。療育施設に通ってそこでやってもらえばそれで済む、というスタンスではなかなか難しい。療育施設でやっていることを、家庭での生活の中でどのように取り入れていけば良いのかを聞き、できるところは取り入れてみる。今日はこの療育、明日はこの施設でお勉強、毎日毎日さまざまな施設に親子で通い、そこで数時間程度のセラピーを受ける、ということを繰り返してみても、その他の時間は家庭で親子で過ごすのだから、やっぱり家庭でどんな風に生活するのかが大事だと思うのです。

 

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どこどこ? 

 昨日に引き続き、今日も!

 ことばの相談に来ている男の子。ママが作った私の写真カードを来る前に見せてきたとのこと。さすがママ!その写真を見せると私に差し出してきました。ちゃんと分かってる!

 彼は大好きなアンパンマンの人形を持ってきました。そのアンパンマンの人形を目の前で私が座布団の下に隠して、「あれ?アンパンマンは?どこ?」とすると、ニコニコしながらその座布団をめくりました。「あった!」その遊びが気に入ったのか、自分でも座布団の下に隠そうとしています。本格的な<どこどこ遊び>をすることにしました。ママと一緒に私の様子を見ていてもらって、私が見えないところでアンパンマンを落とす。そして、親子の方へ戻って「あれ?ない。アンパンマンないよ。アンパンマン、どこどこ?探して!」 最初は大事なアンパンマンをどうするの〜!とパニックになっていたけれど、ルールが分かると大喜び。ママと一緒にアンパンマンを見つけて、「あった!アンパンマン、あった!良かった〜!」何度も何度も繰り返し、自分でも真似して隠そうとしたり、大笑い。

 

 アンパンマンだけでなく赤い風船でも挑戦。庭に出て、私が庭のどこかに隠した赤い風船をママと一緒に探してもらう。「赤い風船、どこ?どこ?探して〜。どこ?」「あった!あった!見〜つけた!良かった!」大人からするとかなり単純な遊び。だけれど、この中にはたくさんの大事なことが含まれています。

 

 <そこにない、けれど ある> これは記憶の力とも関わってきます。隠されたアンパンマンの人形や赤い風船のことを覚えていなくてはできない遊びです。他のことに気がそれてしまったらできない遊びです。そして実は言葉の力にも通じています。言葉には<そこにない ことを 言葉にして伝えることができる> そういう力があります。

 子どもが喜ぶ遊びの中に、たくさんの大事なことが隠されているのですね。子どもが喜んでくれた遊びはぜひ、繰り返し、繰り返し、飽きるまで付き合ってあげましょう。

 そして、繰り返し繰り返しの遊びの中で、繰り返し繰り返しことばかけができます。「探す」ということはどんなことか、「どこ?」ってどういう時に使うことばなのか、実体験の中で身につきますね。

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