『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

声めぐり

 難聴児支援教材研究会の会長である木島先生から、「齋藤陽道さんが書いた<声めぐり>という本をぜひ読んでみて!」と連絡がありました。すぐに注文し、届くのを待っているところです。

 木島先生がブログで紹介しているので、皆さん紹介文を読んでみてください。それから、齋藤さんの元担任だった元石神井ろう学校の天沼陽子先生の本も伴わせて読むと良いようです。

 http://nanchosien.com/10/07-4/1998.html

 

 「口話でいける聴力だから、手話は使わない方が良い」と病院の方で言われ、子どもに手話を使わなくしてしまう親御さんがいらっしゃいます。いわゆる専門家と言われる人から言われるのですから、何も知らない親御さんにとっては大変心配になる助言だと思われます。(たぶん、病院の方は、手話には「種類」がある、ということがわかっていないのかも)

 私が関わっているろう学校では、0歳の時から手話(日本語対応手話)と音声で子どもとのコミュニケーションをとっていきます。三つ子の魂百まで、と言われますが、記憶に残らないような小さい頃の親子の愛着関係はとても大切で、子どものそれから先の人生を決定づけていきます。子どもに聴覚障害がある場合、健聴児と同じ音声言語のみでのやり取りでは、愛着の発達が健全に進んでいかない恐れがあります。子どもに聴覚障害がある場合、子どもにとってわかりやすい、子どもにとっても伝えやすい手話を使うことが、自然なことなのではないかと私は思うのです。

 小さい頃から、手話と音声で育ってきた子どもたちは、コミュニケーションモードを自由に操れる子どもに育っていきます。聞こえない子どもたちの間では日本手話的な手話を使うし(学校の中にデフファミリーのお子さんがいるので、集団に入れば自然に身につけるのだと思います)、手話が下手だったり、手話ができなかったりする音声言語が必要な聴者と話すときには、口話ができるお子さんは音声も使って話しかけてきてくれます。デフファミリーで家庭では日本手話、学校では日本語対応手話と音声を使っている子もいます。そんな風に子どもたちは、相手のコミュニケーションの様子をとらえ、コミュニケーションモードを臨機応変に変えている様子が見られます。

 私は、コミュニケーションモードはひとつでも多い方が良いと思っています。日本語だけでなく、英語、フランス語ができた方が便利であるのと同じです。なので「手話は使わない方が良い」というアドバイスはとてもナンセンスだと思うのです。

 今、聴力が良かったとしても、聴力は下がる恐れがあります。手話を学ぶことで何も損をすることはないと思います。

 先日、ある耳鼻科のお医者さんが「手話を使うと、音声に支障がある、という論文は、どこを探してもないんですよね」とおっしゃっていました。

  だから、齋藤さんのように、苦しい想いを抱えてしまう子どもたちを増やさないように、専門家の方々、どうぞ根拠のないことを、親御さんに言わないでいただきたい、と思います。

 

 ハート&コミュニケーション 

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療育の力

1ヶ月ぶりのブログ更新。なんやかんやといろいろとあり、滞ってしまいました。

さて、今回は、発達センターに毎日通っている男の子の成長を目の当たりにして思ったことをつづります。

 

とても不安が強いお子さんで、音にも敏感で、教室の中に一歩も入って来れませんでした。もし無理やり入れようものなら、パニックを起こしてしまいます。知っている人もいないし、家族もいない。子どもの集団は何をするかわからないし、泣く子もいるし、わめく子もいるし、走り回る子もいるし、きっとその子にとっては恐怖の場所だったのだと思います。

 

無理やり教室へ入れてもダメだ、と判断し、少しずつ、スモールステップで集団に入れるようにしていきました。まず、ひとりの保育担当の先生が、彼にマンツーマンでつく。その先生は必ず同じ先生。その子とその先生はいつも一緒。最初はお互いぎこちなく、なんとなく距離がある感じ。その子が廊下をふらふら歩くその後を、先生はひたすらついて回ったり、その子が廊下にある椅子に座ったら、隣に座る。秋の間はずっとそんな感じでした。

 

寒くなり始めた頃、だんだんと教室の近くの廊下にいられるようになり、廊下の隅のコーナーで遊べるようになりました。その頃から、彼の先生への対応に変化が見られるようになりました。徐々にその先生に心を開いている様子が伝わってくるのです。先生も彼のことが理解できるようになってきているので、その微妙だった距離が、心地よい距離に変化してきているのが見ていてわかりました。先生に抱っこをせがんだり、甘えている様子も見られるようになりました。先生のことを信頼し、この先生となら大丈夫かな、と彼が思っているようでした。

 

年が明け、教室の扉を開けたままにして、廊下で遊べるようになりました。だんだんと教室の中の様子が気になり始めてきたのです。信頼しているその先生が、教室に出入りするのも見ているし、教室の中に誰もいない時は入ることもできていました。ある日、これは偶然だったのですが、彼がちょこっとひとりで教室の中に入ったのですね。先生は廊下でした。その時、私が知らずにその扉を閉めてしまったのです。(あ!この子だ!)と思った時には、非常にびっくりした表情で、廊下にいる先生を求めている彼がいました。すぐにドアを開けてあげて、先生の元へ。先生に抱っこされ、一安心。でも、これが良かったようで、そこからこの子に変化が起こりました。

 

教室の扉の近くで、開けたまま、いつでも廊下に避難できるようにして、その先生と一緒に少しだけ教室にいられるようになったのです。そして、今では、扉を閉めたままで、他の先生とも、一緒にいられるようになり、ずっと教室で過ごすことができるようになりました。

 

教室へ入ることができるまでに数ヶ月かかりました。

でも、これこそが「療育の力」だと思います。

そして、どの子どもにも「人と自分を信じる力」が大切です。

 

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ハート&コミュニケーション

 

 すごーくアンティークな私のお雛様。今年も飾りました!

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ろう・難聴教育研究会 2月合宿研究会のお知らせ

みなさん、参加してください〜。

 

<2月合宿研究会のお知らせ>

2019年2月9日(土)〜10日(日)

会場:さわやか千葉県民プラザ・小研修室1

 

プログラム

2月9日(土)

13時〜受付

13:30〜14:20 「人工内耳装用の若者への問いと若者からの本音」

14:30〜17:00「聴覚障害教育は人工内耳とどう向き合っていけばよいのか」

      高岡 正(東京手話通訳等派遣センター長)

18:00〜夕食・懇親会 (宿泊希望者は県民プラザに宿泊できます)

 

2月10日(日)

10:00〜11:55 「幼稚教育を語る」永井好子(大宮ろう学園)

13:00〜14:55 「幼稚教育を語る」村上庸子(大塚ろう学校)

 

参加費

会員 一般:両日参加4000円・1日参加2500円

会員 学生:両日参加1000円・1日参加500円

非会員一般:両日参加5000円・1日参加3000円

非会員学生:両日参加2000円・1日参加1000円

 

夕食・懇親会代:2500円

宿泊費:4100円

朝食代:1100円

 

*当日受付でお支払いください。

 

申し込みはメールまたはファックスで、藤田公子まで (申込締切 2月5日)

Mail: kimiko_fujita@jcom.zaq.ne.jp

Fax: 043-279-4437

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せに生きる

発達センターにA君という年長の男の子がいます。この子は毎日、バスで通ってきて、療育を受けています。私は今年度、このA君の担当になり、保育の先生方と一緒にこの子の支援をしてきました。

 

A君はいつも楽しそうなのです。いつも笑顔いっぱい!

人間は起きている大半は考え事をしていて、その考え事の中心は、将来の心配事や不安である、とどこかで聞きました。でも、A君は違う。いっつもニコニコ。幸せいっぱい。そして全力で生きていて、全力で自分の楽しい感情も、怒りの感情も、全身全霊で表現し、伝えてくるのです。

 

彼は最近、「〇〇したら、〇〇ね」という、ちょっとした言い聞かせが理解できるようになってきました。なので「お勉強したら、屋上(に行って遊ぶ)ね」と伝えると、屋上へ行くのを楽しみにしながら、私とのセラピーに付き合ってくれます。この日は1年ぶりにことばの発達のチェックを行う日でした。

 

チェックを終わり、屋上へ遊びに行くための洋服と帽子を見せ、行くことを伝えると、もう満面の笑みなのですね。皆さんに見せたいくらい!そして毎日屋上へ行って遊んでいるはずなのに、まるで初めて行くみたいに大喜びしているのです。

 

この様子を見ていて、ちょっと落ち込んでいた私は、彼から元気をもらいました。<ねぇ、先生、幸せに生きるってこういうことなんだよ。だから、いつも笑顔で!>と言われているようでした。

 

エリザベス・キュブラーロスが本の中で、<どんな人でもあなたの師になりうる>と言っていましたが、本当にそうです。A君、ありがとう。

 

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子どもの様子を見る視点

「ろう学校の乳幼児教育相談」というテーマで、言語聴覚士の卵たち用の本に少しだけ書かせていただくことになり、その準備でバタバタしていて、ブログの更新が滞っていました。その執筆にあたり、難聴児支援教材研究会代表の木島照夫先生とやりとりがあり、やっぱり乳幼児教育相談って大事!ということを再確認。木島照夫先生も難聴児支援教材研究会でブログを書いているので、みなさん見てみてくださいね。

 

さて、今回は発達のお話。

ハート&コミュニケーションのことばの相談に来るお子さん達。相談のみのお子さんもいらっしゃいます。その相談のほどんどが「発語がほとんどない」というもの。様子を見ていてもいいのはどういう場合か?様子を見ていないで療育につながった方がいいのはどういう場合か?どんな視点で見ていけばいいのか?

 

まず、3歳以降になっても発語がほとんどないお子さんの場合。様子を見ていないで、地域の発達相談を受診することをおすすめします。聴力に問題がなく、発声発語器官に問題がない場合、発達に問題がある場合が考えられます。3歳児健診があると思いますので、その時に相談してください。

 

子どもの様子を見るときの視点として、「ことばの理解はどうかな。年齢相応かな?」「何かこだわりがある子なのかな?」「落ち着きはあるのかな?」「コミュニケーションの態度はどうかな?」などを見ていきます。

コミュニケーションの態度として、視線は合うかな、何かびっくりしたり、あれ?っと思うような面白いことがあったときに、大好きなママのほうを見るかな、とか、伝えたいことがあったときに、どんな様子なのかな、などを観察します。

こだわりとは、例えば、ミニカーを何台もずっとながーく一列に並べる。少しでもその列が乱されるものなら、癇癪を起こす子もいます。顔を動かさないで横目で物や光を見て、それを続ける子もいます。危ないと思われるところに、どうしても登りたくなる子もいます。

落ち着きのなさは、この時期のお子さんは元気いっぱいなのですが、その動きに目的がない感じのお子さんです。ママのことを確認することなく、目に入ったもの、目に入ったものを目指して動き回り、その動きに目的が感じられないこと。

 

小さい頃から親が上手に関係を作れるようにしていけば、子どもの様子も徐々に変わってきます。

聴覚に問題があるお子さんでも、こだわりやコミュニケーション態度の問題、落ち着きのなさ、は小さい頃から現れてきます。その場合は、聴覚だけの問題ではなく、発達の問題が背後に隠れている場合があるので、親が早くからそれを気づき、関わり方の工夫をしてく必要がありそうです。

 

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