『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

その子の ことば

発達がゆっくりな聞こえる5歳の男の子。簡単な指示を理解することができるようになり、自分からもジェスチャーなどを駆使して伝えようとしてくれます。

 

ある日の個別指導でいきなりズボン(パンツも)を下ろし始めました。その子との個別は初めてだったので私もよく分からずビックリ。急にトイレに行きたくなったのかな?と思いました。

「トイレなの?」と聞くと、ドアの近くに立ち、もう我慢できない〜!みたいな感じに手をドアに向かってかざすので、お母さんとトイレに行ってもらいました。トイレから帰って来て、お母さんにちょっとお話を伺うと、どうも「嫌」な時にズボンを下ろすよう。お母さんも困っていました。

 

なるほど。この子は「嫌な時」「もう終わりにしたい時」言葉では伝えることが難しいのでこういう手段になってしまう。今までの経験の中で、いきなりズボンを下ろしてみたらその場から立ち去ることが出来たので、きっと“こういう風にすれば終われる”と誤学習してしまったのでしょう。

 

さてさて次の個別でも同じようなことがありました。セラピーを行なっている最中にまたまたズボンを下ろし、漏れちゃうよ〜、アピール。一瞬焦ったのですが、そうだった、そうだった、と思い出し、

「もうお終いね。分かった。もう嫌だね。じゃぁ、これで遊ぼうか?」と素敵なおもちゃを見せると目がキラキラ。「じゃぁ、ズボンを履こう。恥ずかしいよ。」「こっちはお終いね。片付けよう。ポイポイ。」と片付け始めると、自分からズボンを履き、片付けを一緒にしてくれました。うふふ!

 

直ぐには修正できないかも知れませんが、こういうことがあったらその度にその子の気持ちを代弁して伝えてあげる。そのうちに「お終い」と<ことば>で伝えてくれる日がきます。きっと!

 

岡本夏木先生の本の中にこんなことばがあります。

<障害児にことばを生み出させる試みに従事する中で、同時に私たちは、彼らのことばが私たちに教えてくれているものを捉えていかねばならない。私たちは、障害児のことばや子どものことばを、自分たちに比べて、低い、未発達で不十分なことばとして捉え、それを私たちのことばへ近づけることにおいてしか、彼らとの言語的関わりを考えていない。しかし、彼らとのコミュニケーション事態の中においては、子ども達も私たちも、ともにひとりの人格的存在として、自己を表現し、相手と通じ合いを求めてことばを用いているのである。そのことにおいて、彼らのことばがいかに変則的であり、またたどたどしくとも、それが持つ意味は大きいのである。そして、私たちが自分のことばのなかにすでに忘れ去っているようなことばの本質が、障害児や子どものことばの中に珠玉のごとく光っているのを見落としてはならないだろう。>

 

日々、お子さん達から学ばせていただいています。

長くなりました。お読みいただきありがとうございます。