『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

傷つけないで欲しい

 長いこと発達障害児の療育の現場を担当するベテランの臨床心理士の先生と話していてハッとしたことがありました。

 その先生は東田直樹さんの講演会に参加されたそうです。東田直樹さんは自閉症で、「僕が飛び跳ねる理由」という本を書いた方。一見すると、ちゃんと言葉もしゃべれないし、走り回ったり、ウロウロしてしまったり、大声を出したりするので、その様子を見ていると「自閉症」。障害のために、音声言語で流暢に会話をすることが難しく、平仮名ボードを使い、自分の内面や感じていることを表現するようになったのは、中学生のときからのようです。

 一見すると「自閉症」。でもその内面には感受性豊かな世界が広がり、哲学者のような視点が隠れています。見かけで判断するのはいけないですね。

 東田さんが小さい頃に通っていた療育で、自分で選んだ動物のシールを貼る、ということをしたとき、東田さんは黒と白のコントラストに興味を持ち、パンダを選んだそうです。すると周りにいた療育の先生方が「直樹くんは、パンダが好きなんだね〜」。本人は、「別にパンダが好きなわけじゃないんだけどな〜」と思っていたそう。次の日もまた動物シールを選ぶ場面があり、昨日と同じものを選ぶのかと思いパンダシールを選ぶと、先生方が「あ〜!やっぱり直樹くんはパンダが好きなんだね!」。東田さんは「そうじゃないんだけどな〜」と思っていたそうです。

 そして、療育にたずさわる先生方にお願いしたいことを聞かれると、「親と子どもを傷つけないで欲しい」と。

 この言葉は重いですね。

 

先日、あるお子さんとご両親とのセラピーで、ご両親が心配でいろいろなことを質問されてきました。ご両親は大変心配されているので、困っていること、保育園での様子、どうしてこうなってしまうのか、などを涙ながらに質問され、私がそれに答えるということがありました。もしかしたら、振り返ると、その中で私は「親と子どもを傷つけていた」かも知れないな、と思い、心が重くなりました。その子は親が泣きながら自分の話をしているのを見て、心配に思っていたかも知れません。こういう話をするときには、敏感にならないといけないかも知れません。

 一見すると発達障害が重く、きっと私たちが話していることも分かっていないかも、と思えるような子でも、もしかしたらその子の中には、豊かな言葉と心が広がり、ただ、それが表現できないだけかも知れません。私たちセラピストは気をつけるべきですね。

 

 話は変わり、この間の療育センターのセラピーでとっても大笑いしたことがありました。その子は私との個別をとても楽しみしてくれていて、最近は落ち着いて課題を一緒におこなうことができるようになりました。一緒にカテゴリー分けをしているとき、ピーマンのミニチュアを見せて、私が「これ なんて名前?」と聞くと、自信満々に「ピーターパン!」。もうその様子に大笑い。私がとってもウケているのでその様子を見てその子も大笑い。「ピーマンだよ〜!」と言うと、「ピーマン!」と言っていました。

 私はできるだけ、この子たちの記憶の中に、「楽しい時間を共有できた人」として残りたい。

 

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