『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

療育の力

1ヶ月ぶりのブログ更新。なんやかんやといろいろとあり、滞ってしまいました。

さて、今回は、発達センターに毎日通っている男の子の成長を目の当たりにして思ったことをつづります。

 

とても不安が強いお子さんで、音にも敏感で、教室の中に一歩も入って来れませんでした。もし無理やり入れようものなら、パニックを起こしてしまいます。知っている人もいないし、家族もいない。子どもの集団は何をするかわからないし、泣く子もいるし、わめく子もいるし、走り回る子もいるし、きっとその子にとっては恐怖の場所だったのだと思います。

 

無理やり教室へ入れてもダメだ、と判断し、少しずつ、スモールステップで集団に入れるようにしていきました。まず、ひとりの保育担当の先生が、彼にマンツーマンでつく。その先生は必ず同じ先生。その子とその先生はいつも一緒。最初はお互いぎこちなく、なんとなく距離がある感じ。その子が廊下をふらふら歩くその後を、先生はひたすらついて回ったり、その子が廊下にある椅子に座ったら、隣に座る。秋の間はずっとそんな感じでした。

 

寒くなり始めた頃、だんだんと教室の近くの廊下にいられるようになり、廊下の隅のコーナーで遊べるようになりました。その頃から、彼の先生への対応に変化が見られるようになりました。徐々にその先生に心を開いている様子が伝わってくるのです。先生も彼のことが理解できるようになってきているので、その微妙だった距離が、心地よい距離に変化してきているのが見ていてわかりました。先生に抱っこをせがんだり、甘えている様子も見られるようになりました。先生のことを信頼し、この先生となら大丈夫かな、と彼が思っているようでした。

 

年が明け、教室の扉を開けたままにして、廊下で遊べるようになりました。だんだんと教室の中の様子が気になり始めてきたのです。信頼しているその先生が、教室に出入りするのも見ているし、教室の中に誰もいない時は入ることもできていました。ある日、これは偶然だったのですが、彼がちょこっとひとりで教室の中に入ったのですね。先生は廊下でした。その時、私が知らずにその扉を閉めてしまったのです。(あ!この子だ!)と思った時には、非常にびっくりした表情で、廊下にいる先生を求めている彼がいました。すぐにドアを開けてあげて、先生の元へ。先生に抱っこされ、一安心。でも、これが良かったようで、そこからこの子に変化が起こりました。

 

教室の扉の近くで、開けたまま、いつでも廊下に避難できるようにして、その先生と一緒に少しだけ教室にいられるようになったのです。そして、今では、扉を閉めたままで、他の先生とも、一緒にいられるようになり、ずっと教室で過ごすことができるようになりました。

 

教室へ入ることができるまでに数ヶ月かかりました。

でも、これこそが「療育の力」だと思います。

そして、どの子どもにも「人と自分を信じる力」が大切です。

 

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ハート&コミュニケーション

 

 すごーくアンティークな私のお雛様。今年も飾りました!

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ろう・難聴教育研究会 2月合宿研究会のお知らせ

みなさん、参加してください〜。

 

<2月合宿研究会のお知らせ>

2019年2月9日(土)〜10日(日)

会場:さわやか千葉県民プラザ・小研修室1

 

プログラム

2月9日(土)

13時〜受付

13:30〜14:20 「人工内耳装用の若者への問いと若者からの本音」

14:30〜17:00「聴覚障害教育は人工内耳とどう向き合っていけばよいのか」

      高岡 正(東京手話通訳等派遣センター長)

18:00〜夕食・懇親会 (宿泊希望者は県民プラザに宿泊できます)

 

2月10日(日)

10:00〜11:55 「幼稚教育を語る」永井好子(大宮ろう学園)

13:00〜14:55 「幼稚教育を語る」村上庸子(大塚ろう学校)

 

参加費

会員 一般:両日参加4000円・1日参加2500円

会員 学生:両日参加1000円・1日参加500円

非会員一般:両日参加5000円・1日参加3000円

非会員学生:両日参加2000円・1日参加1000円

 

夕食・懇親会代:2500円

宿泊費:4100円

朝食代:1100円

 

*当日受付でお支払いください。

 

申し込みはメールまたはファックスで、藤田公子まで (申込締切 2月5日)

Mail: kimiko_fujita@jcom.zaq.ne.jp

Fax: 043-279-4437

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せに生きる

発達センターにA君という年長の男の子がいます。この子は毎日、バスで通ってきて、療育を受けています。私は今年度、このA君の担当になり、保育の先生方と一緒にこの子の支援をしてきました。

 

A君はいつも楽しそうなのです。いつも笑顔いっぱい!

人間は起きている大半は考え事をしていて、その考え事の中心は、将来の心配事や不安である、とどこかで聞きました。でも、A君は違う。いっつもニコニコ。幸せいっぱい。そして全力で生きていて、全力で自分の楽しい感情も、怒りの感情も、全身全霊で表現し、伝えてくるのです。

 

彼は最近、「〇〇したら、〇〇ね」という、ちょっとした言い聞かせが理解できるようになってきました。なので「お勉強したら、屋上(に行って遊ぶ)ね」と伝えると、屋上へ行くのを楽しみにしながら、私とのセラピーに付き合ってくれます。この日は1年ぶりにことばの発達のチェックを行う日でした。

 

チェックを終わり、屋上へ遊びに行くための洋服と帽子を見せ、行くことを伝えると、もう満面の笑みなのですね。皆さんに見せたいくらい!そして毎日屋上へ行って遊んでいるはずなのに、まるで初めて行くみたいに大喜びしているのです。

 

この様子を見ていて、ちょっと落ち込んでいた私は、彼から元気をもらいました。<ねぇ、先生、幸せに生きるってこういうことなんだよ。だから、いつも笑顔で!>と言われているようでした。

 

エリザベス・キュブラーロスが本の中で、<どんな人でもあなたの師になりうる>と言っていましたが、本当にそうです。A君、ありがとう。

 

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子どもの様子を見る視点

「ろう学校の乳幼児教育相談」というテーマで、言語聴覚士の卵たち用の本に少しだけ書かせていただくことになり、その準備でバタバタしていて、ブログの更新が滞っていました。その執筆にあたり、難聴児支援教材研究会代表の木島照夫先生とやりとりがあり、やっぱり乳幼児教育相談って大事!ということを再確認。木島照夫先生も難聴児支援教材研究会でブログを書いているので、みなさん見てみてくださいね。

 

さて、今回は発達のお話。

ハート&コミュニケーションのことばの相談に来るお子さん達。相談のみのお子さんもいらっしゃいます。その相談のほどんどが「発語がほとんどない」というもの。様子を見ていてもいいのはどういう場合か?様子を見ていないで療育につながった方がいいのはどういう場合か?どんな視点で見ていけばいいのか?

 

まず、3歳以降になっても発語がほとんどないお子さんの場合。様子を見ていないで、地域の発達相談を受診することをおすすめします。聴力に問題がなく、発声発語器官に問題がない場合、発達に問題がある場合が考えられます。3歳児健診があると思いますので、その時に相談してください。

 

子どもの様子を見るときの視点として、「ことばの理解はどうかな。年齢相応かな?」「何かこだわりがある子なのかな?」「落ち着きはあるのかな?」「コミュニケーションの態度はどうかな?」などを見ていきます。

コミュニケーションの態度として、視線は合うかな、何かびっくりしたり、あれ?っと思うような面白いことがあったときに、大好きなママのほうを見るかな、とか、伝えたいことがあったときに、どんな様子なのかな、などを観察します。

こだわりとは、例えば、ミニカーを何台もずっとながーく一列に並べる。少しでもその列が乱されるものなら、癇癪を起こす子もいます。顔を動かさないで横目で物や光を見て、それを続ける子もいます。危ないと思われるところに、どうしても登りたくなる子もいます。

落ち着きのなさは、この時期のお子さんは元気いっぱいなのですが、その動きに目的がない感じのお子さんです。ママのことを確認することなく、目に入ったもの、目に入ったものを目指して動き回り、その動きに目的が感じられないこと。

 

小さい頃から親が上手に関係を作れるようにしていけば、子どもの様子も徐々に変わってきます。

聴覚に問題があるお子さんでも、こだわりやコミュニケーション態度の問題、落ち着きのなさ、は小さい頃から現れてきます。その場合は、聴覚だけの問題ではなく、発達の問題が背後に隠れている場合があるので、親が早くからそれを気づき、関わり方の工夫をしてく必要がありそうです。

 

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ヴァンサンへの手紙

ヴァンサンへの手紙 J’avancerai vers toi avec les yeux d’un sourd

 

皆さん、「ヴァンサンへの手紙」という映画をもうご覧になりました? フランス語のタイトルは「ろう者の視点であなたに近づく」というものです。まだ、ご覧になられていない方はご覧になってみてください。考えさせられます。

 

この映画を観て、どこの国でも同じ事情なんだな、と思いました。ドレペ神父が初めて手話で教育を始めたフランスも、ミラノ宣言の後は口話教育になり、100年もの間、手話が禁止されてきました。

私は、以前、ろう難聴教育研究会の当時の会長である、伊藤政雄先生の講演を聞いたことがあります。強烈に印象に残った話は、口話教育が始まった当日、いきなり大きな壁が学校にできていて、壁の向こう側の様子が見られなくなっていた、とおっしゃっていました。これから入ってくる生徒は口話教育だから、手話をやっているこちら側の様子を見せてはいけないということだったそうです。手話をやっている様子を見たら、羨ましがるだろうからと。

 

映画の中には、様々な聞こえない人が出てきていました。

口話教育のみで育てられ、口話も中途半端。手話もできない。親から離れて生活ができない、自立ができない聞こえない人。物事を深められる思考が育っていなく、単純な思考でしか考えられない聞こえない人。

 

発音練習に明け暮れ、親子関係まで破綻し、「親は私が聞こえないことを、受け入れてくれなかった」と言う ろう者。

 

聴覚障害者>を作り出しているのは、聞こえる人なのだな、とも思いました。映画のコメントに、耳鼻咽喉科医の平野先生が「人工内耳推進派の耳鼻咽喉科医に観てもらいたい」と書いていました。こういう考えのお医者さんが少数派でもいらっしゃることが救いです。聞こえる人に近づけようとさせられる教育に、そして、聞こえない人たちが歩んできた、辛い歴史に、その中で自分たちの言語である手話を仲間とともに守り抜いていたろう者たちの強さに、胸が張り裂けそうでした。

 

映画を観て、私が今携わっている仕事の大切さ、重責を再確認しました。

やはり、ろう教育の原点である乳幼児教育相談が大事ですね。その時に、どんな支援を聞こえる親御さんに行うか。それが、聞こえない子どもとその両親のそれ以降の運命を決めると言っても過言はありませんね。

0歳児で来室された時に、聞こえる親たちに、きちんと聞こえない障害を理解してもらい、健全な親子関係を育てる支援を行うこと。聞こえる親が聞こえない子に寄り添い、ありのままの子どもと向き合い、楽しく子育てができるように支援すること。その重責を抱え、聞こえる世界と聞こえない世界の橋渡しの支援をしていこうと、そういうSTになろうと再確認しました。

 

ある聞こえないお母さんがこのような手記を寄せてくださいました。もしかしたら、このブログを読んでくださっているかも。大変感動したので、載せます。

「ろうの子どもたちはみんな、自分の子どものように本当に可愛いと私は思っています。その想いは私だけでなく、ろうのお母さんなら少なからず、同じような想いは持っているはずです。子どもたちは小さな手で、懸命にお母さんに何かを伝えようとしている。お母さんもお母さんなりに自分の知っている手話で何とか応えようとしている。我が子のありのままの姿をきちんと受け止めようと頑張っている聴者のお母さん方には、もう本当に、感謝の言葉しかありません。」

 

ヴィクトル・ユゴーのことばも胸に迫りました。ユゴーは、ろう者の集まりに度々足を運んでいたようです。

「心で聴くなら、耳が聞こえないことなど何の問題であろうか?問題なのは、聴くことができない心である。」

 

 

 

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うちのワンコ。「これ、全部ぼくの〜」って言っている。

 

 



 

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何気ない耳学問

先日、仕事場で、隣の机でケース検討をされているお二人の先生の話の内容を、パソコンを打ちながら聞いていました。

「一日に喋ると気が済む最低の量があって、女性は6000語なんですって。男性って何語だと思います?」なんていう雑談がありました。「答えは、2000語。男性と女性って、こんなに違うのですね〜。」な〜んていう会話。私はパソコンを打ちながら、(ヘェ〜、そうんなんだぁ〜)と思っていました。そして、私が関わっている聞こえない子ども達のことを想像していました。

 

南村先生が以前の講演会で「愛すること、信じること、想像すること」とおっしゃっていました。「聞こえない世界を常に想像しながら、聞こえないお子さんの子育てをしてください」と。私は聞こえない子どもと関わる仕事をしているので、できるだけ、日々の生活の中で、聞こえない世界を想像するようにしています。

 

聞こえないということは、情報が入りにくいということです。こういう耳学問ができないということ。与えられた情報しか入らないということ。

だから、小さい頃から、情報を自分から取ろうとする子に育てることが大切なのでしょう。三つ子の魂百まで、という諺があるように、小さい頃の関わりがやはり大事になってくるのでしょう。答えをすぐに与えないで、一緒に考える子育て。「どうしてだろう?」と考える子に。そして「なんだろう?」と興味がたくさんある子に。そういう子に育てる。それは聞こえない子どもだけでなく、聞こえる子にとっても大事なこと。でも、聞こえない子は耳学問ができないので、より「知りたがり屋」に育てられるとよいのかも。

 

そして、これは聞こえる子にとっても大事だけれども、読書好きな子に育てる。国語ができる子は、他の教科もよくできる、と言われるけれど、本当にその通り。読み書きができる子に育てること。書くことは、言語思考活動の中で一番難しい。それができる子どもに育てる。

 

手話や口話で話ができても、学習できる言語に育っていない。そういうことにならないよう。表面的なことにとらわれず。小さい頃から、日本語に親しめるように。

 

これから先、大学入試のやり方も変わり、マークシートではなくなり、論じる問題になってくると聞いています。ますます本当の思考の力が問われる時代に入ってきます。その時代を力強く駆け抜けていけるように。

 

あるお母さんがこうおっしゃっていました。「聞こえなくても大丈夫っていうけれど、それは、ちゃんとやるべきことをやった上での大丈夫なんですよね。」なんて深いことば。そしてその通り。

 

これはうちのワンコ。ボールが大好きで、盗まれないように、口にくわえたまま寝ています(笑)。

 

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