『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

<新生児聴覚スクリーニング検査(新スク)でリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 11>

今日は「補聴器と聞こえ」について。

SNS の投稿を見ると、補聴器をつけての反応について「聞こえてるのかなぁ」と心配されているママ達の投稿がおおいですね。今日は、そのことについてちょっとお話しします。

 

補聴器をつけると直ぐに反応が見られるのではないか、と期待して試聴させてみたけれど、なんだか反応がよく分からないなぁ〜。これは結構当たり前のことです。

補聴器はメガネと違い、直ぐに反応が見えないのです。残念だけれど、ちょっと時間がかかる。人工内耳をしても同じですよ。

 

それに補聴器をつけたとしても、私たち聞こえる人と同じように聞こえるようになったわけではないのです。聞こえる人は0dBという音も聞こえるのです(加齢とともに聞こえは変化しますけど・・・)。それに、私たちは聞きたい声や聞きたい音にスポットを当てて聞くことのできる聴覚をもっています。例えば、騒がしいところで、その騒音をカットし、聞きたい人の会話だけに焦点を当てて聞くことができるのです。でも、補聴器は周りの騒音もママの声もいっぺんに入ってきてしまう(人工内耳も同様)。なので、ちゃんとママは〇〇ちゃんに話しかけていますよ〜、と分かってもらうために、きちんと目を合わせて、手話や大げさな表情をつけてのコミュニケーションが大事になってくるのです。

 

音も今までちゃんと聞いたことがないから、何が音なのかが直ぐには分からないのです。しかも、その音が何を意味するかもわからない。

私たち聞こえる人は、音に意味づけをしています。音には意味があるのです。例えば、廊下をパタパタと歩いてくる人の足音。このパタパタの足音は、きっと〇〇さんかな〜とか、玄関の鍵の開ける音がしたから、きっと誰かが帰ってきたのかなぁ〜とか。そんな風に音に意味づけをしながら生活をしています。

もし、赤ちゃんが音に気付いたら、直ぐにフィードバックしましょう。例えば、ママがお鍋の蓋を落としてしまって、それに気づいてくれたら、「気づいたね。今、ママ、しっぱ〜いしたよ。蓋を落としたよ」ともう一度、赤ちゃんの見ている前で蓋を落としてその音を聞かせてあげましょう。音と意味が結びつくように。

もし、洗濯機のガタガタの音に気づいたら、洗濯機に手を当てさせ、振動を感じさせながら、「洗濯機 ガタガタだよ〜」と、赤ちゃんがこちらを向いてくれたときに伝えましょう。

 

もし、赤ちゃんの名前をよんで振り向いてくれたら、聞こえる親御さんは「あ!やった!聞こえたんだ〜!嬉しい!」とそれだけになり、呼びっぱなしということが多々あります。そして何度も確かめてしまう。これはやめましょう。赤ちゃんに振り向き損って思わせないように。せっかく気づいて振り向いてくれたのだから、ちゃんとフィードバックしましょう。

「〇〇ちゃん、って言ったよ。よく分かったね〜!じゃぁ、抱っこしようね」など。ママがニコニコしながらそういう対応をとってくれたら、また振り向きたくなりますね。

それから、私たちのようにきこえてはいないので、しかも感音性難聴だと音がひずんで聞こえることがおおいので、(「新スクでリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 4」の最後のURLにアクセスしてください。難聴者の聞こえについてわかりやすく説明しているページです)ママが「〇〇ちゃん」と呼んだとしても、私たちの耳には「〇〇ちゃん」と聞こえても、赤ちゃんの耳にはどんな風に聞こえたのかはわかりません。

「くみちゃ〜ん!」がもしかしたら、「ういあ〜」って聞こえてるかも知れません。なので、きちんと目を合わせて、指文字の「く」をつけたりして、視覚的にもフィードバックしてあげてくださいね。

 

そして、聞こえているのかどうかはっきりした反応が見えなくても、きちんと目を合わせて、表情、手話、音声をつけて話しかけてあげましょう。赤ちゃんの気持ちを代弁するのがいいですよ。

 

そういう対応を少なくとも半年から1年くらいは続けること。

補聴器の効果は赤ちゃんの声の出し方で見ていきます。最初は大きかった声が、だんだんと柔らかなこえに変わっていくとか、補聴器をつけると確かめるように声を出すとか、「あ〜」「う〜」だけだったのが、それが「あ〜、あ〜、あ〜」と繰り返しになったり、「あ〜、う〜」となったりしていきます。そういう風になるまでにはしばらく時間がかかります。焦らないで。

 

補聴器の設定は最初は小さめから始めます。赤ちゃんのちゃんとした聴力を分かるのには時間がかかるし、その子の発達とも大きな関係があるし、最初から大きな音で入れてしまって、本当は実はもっと聞こえていた、ということになると、赤ちゃんの耳を壊してしまうことになるからです。

 

それから、どんなときに外してしまうのかもよく観察しておいてください。外すのには赤ちゃんなりの理由があります。

生後半年過ぎると、手先の器用なお子さんでは自分から補聴器を外してしまうことがあるのです。外したとしても大慌てで対応しないこと。「ウッシッシ。これを外すとママが来るぞ〜」と思って、わざと外したりする子もいます。そして、しばらくしてからまたつけてみるように。

 

補聴器をつけたり、外したりするときには、ちゃんとお子さんに見せること。「補聴器をつけるね」「補聴器を外すよ(外したら、見せる)」

 

補聴器の試聴がまだ先のときは、焦らないこと。今できることをちゃんとやること。目を合わせて、手話と音声と表情、実物、カードなどを使って話しかける。それをちゃんとやっておくと、補聴器をつけたときに生きてきます。「あ〜!これがママの声だったの?よ〜く聞こえる!」って思ってくれますよ。

それから人工内耳を決める前に、充分、補聴器で試してみることをお勧めします。

 

またまた長くなってしまいました。なんでもメールで気軽にご相談ください。必要ならば電話していただいてもいいですよ。無料で〜す。

 

ハート&コミュニケーション 関根久美子(言語聴覚士

Kotoba-heart.com

k.sekine@kotoba-heart.com

 

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写真カードの作り方と使い方 その2

写真カードがあれば、おばあちゃんが帰ったあとも、おばあちゃんがそこにいなくても「おばあちゃん」についてのコミュニケーションがとれますね。いつもはいないおばあちゃん、目に見えないこと、目の前にないことを想起させることができるのです。

「おばあちゃんと 遊んだね。楽しかったね〜」「おばあちゃん、お家に着いたかな」「おばあちゃんも ご飯食べてるかなぁ」

 

どこかに行く前に写真カードで伝えるのも子どもにとってはとても良いですね。見通しが立つのでなんだか分からないまま支度をさせられて連れて行かされる、行き当たりばったりの生活、ということが減りますね。

 

ろう学校に行く前に「今日は ひよこ組に行くよ」。お友達のカードを見せて、「〇〇ちゃん、いるかなぁ。一緒に遊べるかなぁ」。ろう学校に行く途中でも写真を見せながら伝えておく。「ひよこ組に行くんだよ。〇〇ちゃん、おはようって言おうね!」。ろう学校に着いたら、その場所をマッチングして、〇〇ちゃんを探してマッチング。「〇〇ちゃん、いたね。おはよう、って言いに行こうね」などなど。家に帰ってからも、そのカードを使ってお話しができますね。

 

公園のカードも作ると良いですよ。いくつかよく行く公園があったら、この公園はこの子はブランコが好きだから、ブランコを撮ろう。こちらの公園は滑り台が好きだから、滑り台を撮ろう。そして、行く前に2つのカードを見せて選ばせてみると良いかも知れません。最初は上手に選べないかも知れないけれど、そのうち必ず視線や指差しなどを使って選んでくれます。

 

「病院に行くよ」と病院のお医者さんのカードを見せると泣いてしまう、というお子さんもいました。それだけよく分かっている、ということなのです。泣いてしまったら、気持ちを受け止めてあげましょう。「病院、行きたくないね。嫌だよね。すぐに終わるよ。終わったら、公園、行こうね」と公園のカードも見せるなど。

 

写真は子どもの目線で撮ると良いです。「おうち」のカードを作ったとして、マンションの外観をバーン!と撮ったとしても、子どもには分からないのですね。子どもの視点で写真を撮りましょう。家の写真を撮るとしたら、どこをどういう風に撮ったら子どもに一番分かるかな、と考えながら撮りましょう。いつも遊んでいるリビングでしょうか。

 

そして、写真カードはいつもお子さんの手の届くところに置きましょう。写真カードを使いながら生活をしていくと、写真カードに興味をもち、ジーっとひとりで見ていたり、気になったカードを指差してママに伝えてくれるようになるでしょう。

 

また、写真カードはリングなどでひとつの束にし、分けておくのもおすすめ。家族編、学校編、食べ物編、乗り物編などなど。学校の行くときには、学校の束を持っていけば良いので、活用しやすくなります。

 

子どもの発達として、最初はみんなやっぱり実物がよくわかり、その次の段階で写真が分かるようになり、その次に実物に似ている絵。その後にイラスト、という風になっています。なので、写真カードだけで分かるようになるまでには、実物とマッチングさせていきましょう。すると、だんだんと写真カードが実物を表すことに気づいてくれます。

写真カードと実物をマッチングし、見比べるという力は、見分ける力につながり、それは分かる力につながっていくのです。

 

こういう丁寧な関わりって、聞こえないとか、聞こえにくいとかに関係なく、聞こえる子どもにとってもとても良いことです。目に見えないことを想起させたり、見通しを与えて、理解させてから行動したりすることで、子どもも安心できるでしょうし、心の成長にも良いですよね。なにより子どもをひとりの個人として尊重することにもつながります。

 

あるお母さんの手記から

*写真カードを使い始めてから半年後、自分がとうもろこしを食べている写真カードを指差して「食べたい!」の意思表示が見られました・・・とても嬉しく、少し救われたような気持ちになりました。

 

Facebookに寄せられた、先輩お母さんからのアドバイスと絵日記の写真

*絵カード、写真カード、とっても懐かしいです。小さい頃よく作って使っていました。懐かしいです。

スーパーのチラシなんかを利用して作ったり。チラシは素材の宝庫でした。

あと毎日の小さな出来事をかいた絵日記。娘が2歳頃から書き始め、そのうち娘が自分で描けるようになり・・・たくさんのスケッチブックと日記帳は私の宝物です。

 

いつでもご質問やご心配なことがおありでしたら、お気軽にメッセージください。

ハート&コミュニケーション 関根久美子

k.sekine@kotoba-heart.com

Kotoba-heart.com

 

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公園の写真カード

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カテゴリーごとに分けられた写真カード

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あるお母さんから送っていただいた絵日記の写真

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絵日記の写真2




 

新生児聴覚スクリーニング検査(新スク)でリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 9

写真カードの作り方と使い方 その1

本当は「ことばが表出できるようになるまでに」を書こうと思っていたのですが、「写真カードの使い方がいまいちわからない」と質問があったので、写真カードの作り方、使い方をお知らせします。

 

難聴児の療育機関に通うようになると、写真カードを作りましょう、と言われると思います。先日のブログでお伝えしたように、カードも「ことば」なのです。

まだ、ママも手話がすぐにできないし、赤ちゃんだっていきなり手話を使われたってわからない。実物も大きなものになると(例えば、学校)提示することは不可能。今、その場にいない人、その場にない物を伝えたいとき、どう伝えたらいいのかな。そういう時に写真カードが役に立ちます。

 

まず、写真カードの作り方ですが、写真の隣に縦書きで文字を書き入れます。例えば、パパの写真。背景はできるだけシンプルに。背景にアンパンマンの絵などがあったら、そっちに目がいっちゃうかもしれません。パパの写真の隣にカタカナで「パパ」、あるいは「おとうさん」と書く。

写真カードは子どもが興味をもったものを中心に作りましょう。例えば、家、家族、おじいちゃん、おばあちゃん、好きな食べ物、好きなおもちゃ、好きなペット、よく行く公園、ろう学校、ろう学校の先生やお友達、病院の先生などなど。

文字を書くときには、平仮名は平仮名。カタカナはカタカナで。そして、分かち書きにする。例えば、「せきねせんせい」と続けて書いてしまうと、どこが単語のまとまりかが分かりにくいので、「せきね せんせい」「〇〇くん の ママ」など、単語と単語の間を少し離して書くと良いです。

あるお母さんに写メを撮って送ってもらいました。こんなふうに作ります。〇〇さん、ありがとう。

 

使い方としては、例えば、今が旬のイチゴ。イチゴを買いに行くときに、イチゴの写真を見せて、「イチゴを買うよ」。スーパーの写真を見せて、「スーパーに行くよ」と写真カードで伝えてから行く。スーパーに着いたら実際のスーパーとマッチング。イチゴ売り場でイチゴを見つけたら、またカードと実物のイチゴとマッチング。

スーパーから戻ったら、またイチゴのカードと実際のイチゴを見せて「イチゴ 買ったね」 スーパーのカードを見せて「スーパーで買ったね」。

目の前でイチゴを洗って、イチゴのへたをとって、もしイチゴを食べるのが初めてだったらまずはママが美味しそうに食べるのを見せる。その後、お子さんに食べさせてみるのがいいでしょう。

なんて話しかけをしましょうか? 「イチゴだよ。きれいだね。真っ赤だね。おいしいよ」子どもの視点に立って、子どもの思っているだろうこと、伝えたいと思っているだろうことを話かけましょうね。

 

そういうことを続けていくと、イチゴが食べたくて、自分から「イチゴ」のカードをママに渡してくれるようになりますよ。あるいは、イチゴが食べたかったけど、ママと一緒に冷蔵庫を確認したらなくて、スーパーのカードをママに渡しに来るかも知れない。イチゴがもうスーパーに売ってない頃にそんなことがあったら、そういう時は、子どものそういう気持ちを受け入れ、「イチゴ食べたいね。探しに行こうか」とスーパーへ行ってみる。一緒に果物売り場を探してみる。「イチゴ ないね〜。もう、イチゴはおしまいなんだね。ないね。でも、ぶどうが売ってるよ。ぶどうを買おうか!」とすればいい。今は分からなくても、年中イチゴが手に入るものじゃないんだな、って思ってくれるでしょう。

 

聞こえない・聞こえにくい子って結構<いき当たりばったりの生活>を送っている子がいるんですよね。聞こえる両親だったりしたらなおのこと。夫婦で音声言語のみで会話をしていると、聞こえる子だったらその会話を聞いてなんとなく理解できるようになる。けれど、聞こえない・聞こえにくい子どもたちって、そういう情報が入らない。

夫婦で「明日、おばあちゃんが来るって」など音声言語だけで話しちゃうと何も分からないわけです。それで、次の日、子どもが後ろを向いたら『えぇ!びっくり〜!おばあちゃん!いる!』ってなっちゃう。そういう経験を毎回続けていたら、おばあちゃんが来るのを楽しみに待つ、とかという気持ちが育たない。しかも、人ってこんな風に突然現れるものなんだ〜、ってそれが当たり前になっちゃう。

そういう時も写真カードなんです。おばあちゃんの写真カードを見せておく。「明日、おばあちゃん来るよ。楽しみだね〜」次の日、「今日、おばあちゃん来るよ。楽しみだね。なにして遊ぶ?」

ピンポーンって玄関のチャイムがなって、「あ!聞こえるよ。ピンポーンって。誰か来たよ。おばあちゃんかな?」と写真カードを見せながらお子さんと一緒に玄関へ行く。ドアを開けて、おばあちゃんとカードをマッチング。「おばあちゃんだ!いらっしゃい」

 

長くなるので、ひとまずここまで。でも、続きがあります。また後で!

ハート&コミュニケーション 関根久美子

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新生児聴覚スクリーニング検査(新スク)でリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 8

昨日は「ことばって何?コミュニケーションって何?」というテーマでした。

今日は「発達について」というテーマでお話をします。以前、書いたことのあるものに手を加えて、ブログに載せたいと思います。

 

たくさんのお母さんとお会いしてきましたが、その中で最も多い質問は<ことば>に関するものです。お子さんの<ことばの発達>が一番気になってしまうのはもちろん分かります。でも<ことばは全体発達の一部>なのです。そして<発達には順序があり、その子その子のペースで伸びていく>ということ。

 

子どもの発達のベースは「からだ」です。その上に「心の育ち」、その上に「知力」、そして一番上にに「ことば」が乗ります。「ことば」の力を大きく育てたいならば、その下の部分を大きく育てていく必要があります。

 

まずピラミッドの一番下、「からだ」の部分をお話しします。やはり「身体が資本」なのです。私たちは生まれた瞬間から死ぬまで重力と戦っています。首を動かせるようになり、寝返りを打てるようになり、お座りができ、立ち上がれる。これはすべて重力に逆らう力が育つから獲得できることになります。重力に立ち向かうためには必要な身体作り。そのために大切な事は規則正しい生活。よく食べて、よく寝ること。夜更かしをさせないこと。これは脳の栄養になります。身体の発達に合わせた充分な運動も必要です。飛んだり、跳ねたり、投げたり、走ったり、でんぐり返りをしたり。。。色々な身体の動かし方ができることは、自分のボディイメージ(自分の身体が空間の中でどんな風に存在しているかが分かること)が習得できてきたことでもあります。ジャングルジムをくぐり抜ける時に頭がぶつからないように腰をかがめるでしょう。あれは自分のボディイメージがしっかりできていないとできないことなのです。赤ちゃんの頃は自分の手を舐めてみたり、手や足を触ってみたり触られたりしながら自分の身体を確認してきました。ろう学校でもグループの時に「ぞうきんの歌」などを楽しんでいますね。あれらの体操もすべてこのボディイメージを育むことにもつながっています。

 

そしてその次に「心の育ち」。これはコミュニケーションのベースでもあります。ママのことが好き。パパのことが好き。にっこり笑うとママもにっこり笑い返してくれる。ママとの間に育まれる共感関係や愛着関係。好きな人に伝えたい。好きな人と分かり合いたい。そういう心が育つことは、ことばの意欲につながり、ことばの成長を促します。

 さて次に「知力」についてです。代表的なものに「手を使う力」が挙げられます。手は第2の脳といわれます。以前、ピアジェという発達心理学者の「知性の誕生」という本を読んだことがあるのですが、その中に書かれていることは、赤ちゃんがどんな風に手を使っているか、という観察でした。何百ページもその観察が書かれているのですよ!

 手を伸ばして物をつかむようになり、物を持ちそれを持ち替えようとし、物をつまめる様になり(つまめるようになると一般的に初語がでます)、積み木を上手に積めるようになるまでに微細な動かし方ができるようになり、右手と左手を同時に別々の動きで動かせるようになり、上手に鉛筆を持てるようになり、タオルを絞れるようになり、トイレで上手にお尻を拭けるようになります。

 日常生活の中で色々な手の動かし方を経験させるようにしていきましょう。食事のときに手掴み食べをするなど、とても良いと思いますよ。手を動かしつつ目を使うことを「目と手の協応」といいますが、それは学習のベースとなります。お家でもお手伝いの中で育んでいってください。

 感覚過敏がある子は物に触ったりすることが苦手ですが、少しずつ少しずつ触れるようにさせていきましょう。まずはママが積極的に触っているところを見せ、大丈夫だということを示して安心させてあげましょう。一度ではすぐに触れるようにならないかもしれません。でも繰り返す内にきっと変化があります。手で触るのが難しいようだったら道具を使って触らせてみる経験も良いでしょう。

 子どもがひとりで出来そうなことはできるだけひとりでやらせてあげましょう。見守ることは時にとても難しいことです。でもひとりでできたという経験はその子に自信を与えます。

 

「身体」「心」「知力」の一番上に乗っているのが「ことばの力」です。ことばとは無関係のようなことでも、実はすべて「ことば」につながっているのです。

 「ことばの発達」はこれらピラミッドの頂点となります。この部分を大きく豊かに育てたいのならば、その下の部分(身体•心•知力)を大きく育てる必要があるのです。

 このような大きな視点でお子さんを見ていくと、お子さんの全体を見れるので、
良いと思いますよ。

 

最後にご自分のお子さんの発達だけでなく、他のお子さんの発達も同じように喜びましょう。他のお子さんが発達することは、ご自分のお子さんも影響を受け発達するということですから。  

 

さて、今日の写真は、フランスのお友達の家の庭で遊ばせてもらっている息子たちの写真。もう十数年前のもの。これ、普通のおうちの庭なんですよ。庭の向こうに気球が飛んできて、それを追いかけに行っているところ。今、フランスも大変なことになっていて心配。フランスはとっても豊かな国でした。

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 ハート&コミュニケーション 関根久美子

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新生児聴覚スクリーニング検査(新スク)でリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 7

たくさんの方に見ていただいていて、本当にありがとうございます。

少しでも助けになればと思い、書いています。

 

本当は写真カードの使い方をお伝えしようかな、と思いましたが、基本的なことをお知らせしないと難しいな、と思ったので、今日は「ことば」について。

 

みなさん、「ことば」ってなんでしょう?

では、コミュニケーションってなに?こんな話を発達センターでもしています。

 

一般的に聞こえる人は「ことば」というと「音声言語」と考えてしまいますが、その人の心がそこに含まれていれば、それが「ことば」になります。「ことば」は相手に自分の気持ちを伝えるための手段。だから、仕草、目線、視線の使い方、表情、ジェスチャー、絵カードや写真カード、もちろん、音声言語、手話・・・全部「ことば」です。

 

赤ちゃんが眠りから覚めて、ママが「おはよう」と伝えると、ニコって笑うときがありますね。赤ちゃんはまだ音声言語や手話などで表現ができないけれど、その笑顔にはたくさんの心が込められています。きっと「ママだ!」「おはよう!」「よく寝たよ」って言いたいのかも知れません。だからその「笑顔」は「ことば」です。

 

では、コミュニケーションは?コミュニケーションは自分と相手との双方向のやりとりであり、共有したり、共感したりすること。でも、相手が受け取って、初めて成立するのです。ここが大切。私が関わっている発達障害の子どもたちは、この「相手が受け取る」という意識が薄いので、コミュニケーションがうまく成立しないことがおおい。ことばは発すればOK、と思っている子がいるので、ドアに向かって「開けて!」とずっと連呼している子もいます。そういう場合は、相手への意識、からセラピーを行います。

 

以前のブログで書いたことがあるのですが、フランスの王様が乳児のことばの発達に大変興味をもち、ある街で生まれた赤ちゃんを数十名集めて「なにも話しかけないで、赤ちゃんのお世話だけを淡々として育てたら、赤ちゃんのことばの発達はどうなるのだろう?」と実験をしたそうなのです。どうなったと思います?・・・赤ちゃんたち、みんな死んでしまったのですよ。そうなのです。私たち人間、動物もですね、心と心の通い合いがないと生きていけない。

 

子どもになんて話しかけたら良いのかが分からなかったら、子どもの様子をよく見ましょう。見ていれば子どものことがよくわかるようになります。そして、子どもが何をよく見ているのか。子どもの視線の先をよく見ましょう。

“あぁ、この子はパパがいると、いつもパパの方を見ているな” そして、こちらの方を見てくれたら、子どもの伝えたいと思われることを伝えていきましょう。「パパ いたね!」「パパ 好きね!」

 

今日はおまけ。

コロナ騒ぎでなんだか食べることしか楽しみがない〜。実は私、フランスでちょっとだけ料理教室に行ってたのです。フランスの家庭料理を作るのが大好き!

これは、<鶏の胸肉セージ風味 : Blancs de Poulet a la sauge >

胸肉に小麦粉、塩、胡椒。フライパンにオリープ油を入れて両面をこんがり焼く。焼いたらお皿にとる。フライパンにセージ、白ワイン、レモンの絞り汁(1個)とレモンの皮をおろしてサッと湯通ししたものを入れて煮詰める。最後にバターをいれる。それがソース。

バターライスでいただくのがおいしい! ボナペティ!

 

 

 

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新生児聴覚スクリーニング検査(新スク)でリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 6

私は発達に遅れのある子どもたちとの関わりもあります。

あるお子さんで、耳は聞こえているのだけれども、おしゃべりができない子がいました。その子はことばの理解はできているのだけれども、おしゃべりができないのです。おしゃべりをするって簡単そうだけど、実は脳の回路をいくつも通らなくてはいけないのです。きっといろいろ表現をしたいことあるんだろうな、と思い、簡単なジェスチャーを入れてみました。始めは真似っこでした。でもそのうちに自分からそのジェスチャーを使い始め、そのあたりから、相手の口元をよく見るようになり、音声模倣が出てくるようになり、なんと簡単なことばだったら言えるようになったのですよ!

おしゃべりは難しいと医者に言われていたというママは大喜び!良かった。

 

さて、前回は視線を合わせて、ということをお話ししました。

今日は、それにプラスして、実物を見せて、ということをお話しします。

おむつを替えたり、ミルクをあげたり、1日の中で何回も繰り返すことってありますね。そういうことをまず丁寧におこなってみましょう。

 

ミルクをあげるときに、今、どうしていますか?もし、赤ちゃんをベッドに寝かせたままで、サッサと台所で作ってしまい、それを「はい、どうぞ」としている方は、ぜひ、その習慣を替えてみましょう。

おむつを替えるときに、サッサと替えてしまっていたら、それも変えていきましょう。

 

ミルクはまず空の瓶を見せる。「ミルクないね」「ミルク 作るね」と手話も交えながら目を合わせて伝えましょう。ミルクを作るところも目の前で見せてあげると良いですね。こちらを見てくれたときに、「おいしいミルク 作ってるよ〜」とか「お湯を入れま〜す。アッチッチ」など言いながら伝えていきましょう。そういう一連の過程を見せることってとても大事です。それがイメージにつながり、イメージがことばの土台を作るからです。見ていないところでサッサとミルクを作ってしまってそれを飲ませるのと、目の前で作っているところをコミュニケーションをとりながら見せていくのとでは、数ヶ月後、大きな差がでてきます。

 

聞こえる子だったら、ママが台所でミルクをカチャカチャ作っている音が聞こえるから、なんとなく「もしかしたら ママ 作ってくれてる?」なんて思えるかも知れないけれど、聞こえない・聞こえにくい子の場合は「目の人」ですから、見せてあげましょう。

 

おむつを替えるときも、おむつを見せて替えることを伝えましょう。何も予告しないでおむつを替えられると、やっぱりビックリしますよね。おしりふきも見せてから拭いたり、ズボンも履かせるときに「ズボンを履くよ」と見せてあげたりしましょう。そのうち、オムツを見せると静かに横になってくれたり、ズボンを見せると足をあげて協力してくれたりしますよ。

 

あるお母さんは出たウンチを見せて、ちゃんと子どもといっしょにトイレに捨てに行き、それを「バイバイ」と言いながら流して、ゴミ箱に捨てる、というプロセスを全部見せてあげていました。もちろん話しかけもいっしょに。歩けるようになったころ、「オムツ ポイしようね!」と伝えると、その子はひとりで自分のおむつをゴミ箱に捨てるようになりました。

 

ハート&コミュニケーション 関根久美子

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新生児聴覚スクリーニング検査(新スク)でリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 5

テレビも新聞もコロナの話題ばかりですね。不安で身体が知らないうちに緊張しています。Facebookで霊長類学者ジェーン・グドール氏の発言を聞きました。彼女の伝えている「我々が自然を無視し、地球を共有すべき動物たちを軽視した結果である」との意見。本当にそうだなぁ、と思います。この方の意見を聞くまで、私はもっと狭い中で今回のことを考えていました。地球上の環境問題と貧困問題が根底にあること。どうしていけばいいんだろう。

 

さて、少しずつ赤ちゃんへの関わり方をお伝えします。

聞こえない子を育て、聞こえない・聞こえにくい子の教育にずっと関わり、今でも全国を飛び回っている私のお師匠さんである南村洋子先生が、「聞こえない・聞こえにくい子どもを育てるにはどうしたら良いですか?何か訓練をする必要がありますか?」と親御さん達にきかれると、必ずこうおっしゃいます。

「特別なことは必要ないのです。子どもとの毎日の生活をとにかく丁寧に行う。それだけ」

あるお母さんがこうおっしゃっていました。「一見簡単なようで、ものすごく大変。1日のうちで時間を決めて何らかの訓練をする方がおそらく楽だと思います」

本当にそうですね。でも、今のうちから少しずつ丁寧にを様々な場面で実践し、習慣づけられると良いと思います。

 

まず大切なのは、子どもと視線を合わせること。聞こえない・聞こえにくい子どもたちは「目の人」であると南村先生はおっしゃいます。その通り。だから、まずは視線を合わせるようにする。これは聞こえる人にとって簡単なようで、習慣にするにはなかなか難しい。私たちは視線を合わせなくても会話ができてしまうからです。でも、聞こえない・聞こえにくい子どもたちは、視線があったときの話しかけしか入らないということを覚えておいてください。後ろから話しかけたり、横から話しかけたり、「手話を使っています」と言ったって、手話を音声言語のように使っていてはダメ。ちゃんと子どもが見てくれていないのに、手話を使ったって無駄。聞こえる私たちは、手話と音声で話しかけると、音声が自分の耳にフィードバックされて、何だか話している気分になってしまうけれど。

視線を合わせる。これがまず大事です。見てくれないときは、見てくれるまで待ちましょう。

 

視線を合わせるために工夫しましょう。お母さんたちの手記から・・・

「子どもがうつ伏せになると、自分もうつ伏せになり、同じ姿勢でそばにいて、話しかけました」

「おもちゃや絵本を私の顔の横に持ってきてから話しかけるなど、目が合いやすいように工夫していました」

「目を合わせ、はっきりした反応、大袈裟なくらいな表情を心がけています」

南村洋子先生の本、きっとすごく参考になると思います。リファーと言われてから、3歳半までのお母さんの手記をまとめてあります。

木島照夫先生の「難聴児支援教材研究会 www.nanchosien.com」から購入できます。

 

ハート&コミュニケーション kotoba-heart.com

関根久美子

 

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