『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

不思議な縁

今日は私の恩師、南村洋子先生についてお話をしようと思っています。実は今、ろう学校の乳幼児教育相談について、ということで執筆をしています。その内容は、南村先生から教えていただいたこと。感謝の気持ちを込めて書いています。

 

南村洋子先生は聞こえないお子さんを育てたお母さんでもあり、聴覚障害分野の教育者です。南村洋子先生の経歴については、インターネットで検索をかけると、わっさわっさと出てきます(笑)。

南村先生がろう学校の乳幼児教育相談での仕事をされる前、トライアングルという難聴児通園施設で主任をされていました。そのときに、言語聴覚士の実習で1ヶ月ほどお世話になったのです。

言語聴覚士の実習は、成人領域と小児領域の2つに行くことが義務付けられているのですね。実習に行くまで、私は失語症の施設で働こうと思っていました。小児領域も最初は発達支援センターでの実習に行くことになっていたのですが、実習に行く数日前に、教授から、「〇〇さんと交代してくれる?あなたはトライアングルに行ってください」と突然言われ、しぶしぶ行くことになったという経緯があります。聴覚障害分野は全く興味がなかったのです。しかも数日前に言われたため、何も勉強もせずに行ってしまいました。今考えると、ひどい学生でした。

 

その当時、南村先生はご自分の経験から、手話の必要性を訴え、大きな転換を図っているときでした。

 

どんな子どもにとっても子どもの学び場は遊び。遊びの中からたくさんのことを吸収していきます。学習的なことも、感情的なことも、体験することも、想像・創造することも。

先生のおやりになっていた教室は遊びが中心でした。遊びの中に学びがあり、遊びの中にことばを育む要素がたくさん入っている教室でした。本当に遊びしかしていなかった!

 

初めて実習に行った日はず〜っと遊んでばかりいるので、「あれ?」と意味がよくわかりませんでした。でも、毎日様子を見させていただくうちに、その遊びの中に含まれている深い意味が分かるようになりました。

 

親子が本気で向かい合い、豊かなコミュニケーションを取りながら遊んでいるのです。子どもはみんな、お母さんが自分に寄り添い、共感し、コミュニケーションをとってくれるので生き生きとしています。本当に楽しそうでした。私はその頃子育ての真っ最中。自分の薄っぺらい子育てを反省しました。私の次に実習生としてお世話になった方も、その時子育ての真っ最中。「本気で子供と向かい合って子育てしているお母さん方の姿を見ると、自分の子育てがあまりにも浅いので、途中から実習に行くのが辛くなったわ。」と言っていました。

先生に伝えたことがあります。「先生、聞こえない子の教室だけではなく、聞こえる子の教室も開いて欲しい」と。

小さい頃に親がこんなにも向かい合い、深い愛情を注いでくれたという体験は、その子の一生のお守りになるはずです。どんなに辛いことがあったとしても、きっと乗り越えられる力になるでしょう。そして、親にとってもこんなに濃密な子育てを体験できたことは幸せなことです。

 

不思議だったのは、小児病院の耳鼻科で働いているとき、「いつか、南村先生と仕事ができますように」と心で願ったことがあったのです。すると、その日の夜、南村先生から電話があり、「ろう学校の乳幼児教育相談で、言語聴覚士を探しているから、来ない?」と誘われ、病院を辞めて、ろう学校で働くことになりました。

 

南村先生との出会いと、トライアングルでの実習がきっかけで、私の今があります。また、20代を異文化、異言語、マイノリティーで過ごした経験も、この聴覚障害分野での仕事に生きています。

 

すべて縁。後ろを振り向くと、ひとつにつながっている不思議を感じることがあります。

次回は、聞こえない子を育てているお母さんの手記から、「私の10カ条」。

 

ハート&コミュニケーション 関根久美子(言語聴覚士

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話しかけの極意

先日、聞こえる発達に問題のないお子さんが、ひとつのことばを理解して言えるようになるまでに、800回聞いている、とお伝えしました。これは聞こえるお子さんの場合ですから、聞こえない・聞こえにくい子の場合には、目を合わせての丁寧な話しかけが最低でも800回ということですね。お子さんに見てもらえるように関わっていく、ということがコツかも。

 

以前、聞こえないお母さんがこんなふうに話していました。

「私たち聞こえない人は、動くものにしか興味がない」

なるほど!と思いました。だから、親御さんのジェスチャーは大げさなくらいがいいし、表情も大げさなくらいがいいし、俳優になったつもりで子どもに対した方がいいくらい。

それから、子どもが理解している、ということが大事。理解していないで表出だけできたとしても、コミュニケーションは成立しないですから。

 

名詞って話しかけるの簡単なんです。例えば、テーブルの上にペンを置いて、「これは ペン。これは ペン。ペン。ペン・・・」な〜んて子どもの気持ちを無視した声かけはやめてもらいたいのですが、名詞ってそれを片付けるまで何度でも繰り返し話しかけられるのです。

でも、難しいのは気持のことばや様子のことばです。子どもがリンゴを食べているときに、「リンゴ 美味しいね。たくさん 食べてるね」などの話しかけができますが、終わったらその話しかけはできません。気持ちのことばはもっとピンポイントで難しい。子どもがブランコに乗っていて、すっごく楽しそうにしていたら、「楽しいね」と伝えられます。子どもは(ふ〜ん。こういう気持ちが 楽しい なんだ〜)って思う体験を最低でも800回。目を合わせて、きちんと伝えることで、理解して、表出に結びつくのです。

それに、子どもの様子をよく見ていないといけない。子どもが突然泣いたとする。その泣いた理由がわからないと、「痛いね〜」なのか「悔しいね」なのか「残念ね」なのか、わからないですから。

 

話しかければいいんでしょ〜、と子どもの気持ちを無視して弾丸トークで話しかけてもダメなのですね。子どもが興味をもったこと、子どもの視線の先にあるものを一緒に見て、子どもの気持ちをくんで、子どもがこちらを向いてくれたときに、目を合わせて話しかける。コミュニケーションですから。心と心の通い合いですから。

南村先生がおっしゃっていたことば「子どもに話す のではなく、 子どもと話す」

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ハート&コミュニケーション 関根久美子(S T)

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反り返り

急に暑くなりましたね。春を通り越して夏のような暑さでした。

みなさんステイホーム、楽しんでいますか?

毎年、この時期になると庭のバラが咲き始めます。強香のバラなので、とても良い匂いが漂っています。

 

いただいた質問の中に反り返りについての質問がありました。

不思議ですね。難聴があるお子さんの中に、よく後ろに反り返るお子さんがいます。抱っこしていると、後ろに頭を反らせるのです。

相談にいらっしゃる道のりで、お年寄りの方に会うと、首をそんなにさせちゃダメ、と怒られてしまうと言っていたお母さんがいました。

でも、これって、難聴の子あるある、みたいです。

 

あるお子さんは背ばいで、ブリッジのように弓状に反り返り、そのまま進んでいました。だから頭のてっぺんがちょっとハゲちゃっていました。

抱っこ紐に入れて抱っこをしていると、そのままのけぞって落ちちゃうのじゃないかしら、と思うくらいの反り方をする子もいました。

 

三半規管が未熟なのと、多分、後ろの情報が欲しいからなのではないか、と思われます。目の人ですから、後ろの情報が欲しいのですよね。

 

あ、そうそう、これは反り返りとは別なのですが、ベビーカーに乗せて走らせると、大泣きする子もいました。もしかしたら、本当に後ろでベビーカーを押しているのはママなの?と不安なのかもよ、と伝え、対面でベビーカーを押したところ、ピタッと泣き止んだ、という子もいました。

 

すっごく反り返っていた子ども達も、だんだんと自然に反り返らなくなります。だから、あまり心配しないように。

 

ハート&コミュニケーション 関根久美子(言語聴覚士

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写真カードへの質問

<届いた質問から>

 

先日、このブログをご覧になっていらっしゃるお母さんからいくつか質問を受けました。きっと皆さんにとっても参考になると思います。その1。

 

  • 写真カードについて。どんな風に写真を撮れば良いのですか?

子どもがどんな風に見ているのか、子どもの視線の先をよく見て撮りましょう。例えば、「おうち」の写真を撮るときに、家の外観やマンション全体を撮ったとしても、子どもはそんな風に見ていないはずです。「公園」の写真を撮るときに、公園の入り口の表札を撮ったとしても、子どもはそんなところ見ていないはず。

 

あるお母さんはバスの写真を撮るときに、子どもがいつもバスを乗るとつり革を見ているので、それを撮っていました。「バスに乗るよ」とそのつり革の写真を見せたら、頭をのけぞって、つり革を見る場面を再現してくれたそうです。

 

あるお母さんはA公園では子どもの大好きな赤いブランコを撮り、B公園では子どもの大好きな滑り台を撮っていました。公園に行く前にはその2枚の写真をお子さんに見せて、「ブランコの公園? 滑り台の公園? どっちに行く?」と言いながら、子どもに選ばせて、子どもが反応を示した方の公園に連れて行っていました。行く途中にもカードを見せて、着いたら、そのカードを見せてマッチングも忘れずに。

 

「おうち」の写真を撮るときには、いつも子どもがいるリビングを撮っていたお母さんもいますね。帰る前に見せて、帰る途中に見せて、着いたら見せていました。

 

「ろう学校」は子どもが学校に着くと、いつも学校の門をよく見ているので、それを撮っていたお母さんもいました。ひよこ組の教室の様子と2枚、いつも使っていましたね。

 

スーパーの写真では、いつもアンパンマンのカートをジッと見ているお子さんだったので、カートを撮っていたお母さんもいました。

 

場所のカードを使って見通しを与える場合は、行く前、行く途中、行ったあと、と最低3回は見せられると良いかも。あるお母さんは、「〇〇に行くよ」と伝えた後、ベビーカーにひと工夫して、子どもがよく見える位置にカードを留めていました。

 

それから、子どもがジッと見ているもの、好きなものをカードにしましょう。子どもの視線の先を一緒に見てみないとわかりません。ジッとみているのは、子どもの興味のあるものです。子どもが何を見ているのか、それをいっしょに見てみましょう。

 

春になって、きれいな花がたくさん咲いていますね。ママはお子さんがそのきれいに咲いているチューリップを見ていると思っていたとしても、もしかしたらお子さんはその花についている毛虫を見ているかもしれません。お子さんがママに共感してもらいたくてこちらを見てくれたときに、「きれいな花ね」と伝えたとしたら、お子さんは見ていた毛虫を「きれいな花」と覚えてしまうかも知れませんね。この場合、撮る写真は、ママは花を撮りたいでしょうが、お子さんが興味をもったものは「毛虫」なので、写真カードは「毛虫」を撮って作ります。

散歩から帰って、家で「毛虫」カードを作って、「毛虫 みたね〜」と毛虫がそこにいなくても、再び伝えることができます。そしてまだ記憶が新しいうちに、次の日にでも、その毛虫カードを見せて、「毛虫、見に行こうか。まだいるかな?」とまたその場に行ってみる。その場に着いたら、カードを見せながら毛虫を一緒に探してみる。「どこ?探そう。どこかな?」「いないね。毛虫 いない。バイバイだったね」

 

興味のあることからしかことばは育っていきません。ママがいくら、このことばを覚えてもらいたい、と思っても、子どもに興味がなかったら、子どもの中にスッと入っていかないのです。だから、自分のお子さんが何に興味があるのか、何が好きなのか、それをたくさん知っていってください。

 

Facebookであるお母さんに作り方を教えてもらいました。そのお母さんは聞こえない子を育てているベテランお母さんです。みかんゼリー!美味しかったです。レシピありがとうございます。

 

 ハート&コミュニケーション 関根久美子(ST)

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聞こえない・聞こえにくいお子さんを育てていらしゃる皆さんへ

今までタイトルを <新生児スクリーニング検査(新スク)でリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ> としていたのですが、ある先生から、新スクに関係する人だけじゃない内容だよね?とアドバイスをいただき、タイトルを変更します。

 

今日は、以前聞いた、北欧での新生児スクリーニング検査でのお話。

北欧では新生児スクリーニング検査でリファーとなると、どんな風にお医者さんが親御さんにその結果を伝えると思いますか?なんと・・・

「おめでとう!あなた方ご夫婦のもとに、異言語、異文化の赤ちゃんが生まれました」

と伝えられるそうです。素敵じゃないですか?

北欧では新生児スクリーニング検査でリファーが出ると、聞こえる両親は仕事を休職することが許され、1年間、「手話」を徹底的に学ぶと聞きました。聴力の程度がどうであれ、聞こえない・聞こえにくい子どもにとって、手話は外せない言語だからでしょう。

 

そう、聞こえない・聞こえにくい子どもたちって、異言語、異文化の子どもたちです。それに赤ちゃんは自分が障害をもって生まれてきたなんて、まったく思っていないはずです。自分は完璧である、このままで美しい、そしてパパとママに愛されることだけを願って生まれてきたはずです。

 

私のお師匠さんである、自身も聞こえないお子さんを育てた経験のある南村洋子先生がこうおっしゃっていました。

「差異がある。そこに価値がある。親はその差異を受け入れることを努力する」

 

知らないから心配になるのです。聞こえない大人の方たちにたくさん会ってください。皆、素敵な人たちです。

聞こえない・聞こえにくい子どもたちは、聞こえる大人にはなりません。聞こえない大人になっていくのです。だから今から、聞こえない人たちにたくさん会ってみてください。

 

ハート&コミュニケーション 関根久美子(言語聴覚士)。

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新生児スクリーニング検査(新スク)でリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 12

毎日、緊張して生活をしているみたいで、でも、やっぱり人間ですから気が緩みます。気が緩み、気が抜けたときに、やっぱりアクシデントって起こるのですよね〜。で、ブログ、書けませんでした。

 

「ことば」ってどんな風に育つのでしょう。私たちはどんな風に「ことば」を覚えたのでしょう。ことばは教えられて育つものではないんですね。コミュニケーションの中で育まれるのです。コミュニケーションについては先日お話ししました。コミュニケーションとは、心と心の通い合い。こちらが投げかけて、相手が受け取ってはじめて成立するもの。心と心が通い合う中で、育つのですね。

 

聞こえる子がひとつのことばを理解して言えるようになるまでに、一体、何回、そのことばを聞いていると思いますか?そういう研究をされた人がいらっしゃるのですね。なんと最低でも800回聞いているのですって!

だから、聞こえない・聞こえにくい子や発達がちょっとゆっくりな子の場合は、きちんと目を合わせて、子どもの視点に立った話しかけが大事になってきますね。こちらは話しかけた気になっていたとしても、子どもがちゃんと受け取らないと成立しないのですから。

 

ことばが手話やジェスチャーや音声で言えるようになるまでに、どんな力が必要なのでしょう。土台にあるのは、「分かる事柄」。これは「イメージ」ですね。これとこれは同じとか、これは同じように見えるけれど、違うとか、そういう力も必要です。

イスを見せると、それは座るときに使う、ということがわかっている。イスとテーブルは違う。テーブルはご飯を食べるときに使うとか。イチゴは食べるもので、赤くて、ゴマみたいなのがついていて、ヘタを取って、洗って、口に入れると甘〜いんだよねぇ、とか。イチゴとミニトマトは違うんだよね〜、とか。このイメージがたくさん入っていればいるほど、ことばが豊かになるのですね。だから、経験が大事。

 

そして、「分かる事柄」の上に乗るのが、「分かることば」。「お茶 飲む?」と聞くと、自分でコップを持ってくるとか。コップでお茶を飲んだ経験やイメージが土台にある。「イチゴだよ〜。食べるよ」と言うと、すっご〜く喜ぶとか。「おむつ どこ?」と言うと、おむつを探して持ってくるとか。でも、こういう視点も必要。例えば、「新聞 持ってきて」と子どもにきいたとして、その行動ができていなかったら、「新聞」が分からないのか、それとも「持ってくる」が分からないのか。分からなそうにしていたら、いっしょに話しかけをしながら「新聞を持ってくる」。

さて、その上に乗るのが「表出できることば」なのですね。だから、表出できることばを増やしたいのなら、分かる事柄と分かることばをたくさん増やすことが大切なのです。日々の生活の中での経験や子どもとどんなコミュニケーションを取ってきたのかが、大切なのです。

 

子どもの表面に現れる事(表出できることば)にとらわれず、見えない部分を大切に大きくしていきましょう。

 

ハート&コミュニケーション 関根久美子(言語聴覚士

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<新生児聴覚スクリーニング検査(新スク)でリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 11>

今日は「補聴器と聞こえ」について。

SNS の投稿を見ると、補聴器をつけての反応について「聞こえてるのかなぁ」と心配されているママ達の投稿がおおいですね。今日は、そのことについてちょっとお話しします。

 

補聴器をつけると直ぐに反応が見られるのではないか、と期待して試聴させてみたけれど、なんだか反応がよく分からないなぁ〜。これは結構当たり前のことです。

補聴器はメガネと違い、直ぐに反応が見えないのです。残念だけれど、ちょっと時間がかかる。人工内耳をしても同じですよ。

 

それに補聴器をつけたとしても、私たち聞こえる人と同じように聞こえるようになったわけではないのです。聞こえる人は0dBという音も聞こえるのです(加齢とともに聞こえは変化しますけど・・・)。それに、私たちは聞きたい声や聞きたい音にスポットを当てて聞くことのできる聴覚をもっています。例えば、騒がしいところで、その騒音をカットし、聞きたい人の会話だけに焦点を当てて聞くことができるのです。でも、補聴器は周りの騒音もママの声もいっぺんに入ってきてしまう(人工内耳も同様)。なので、ちゃんとママは〇〇ちゃんに話しかけていますよ〜、と分かってもらうために、きちんと目を合わせて、手話や大げさな表情をつけてのコミュニケーションが大事になってくるのです。

 

音も今までちゃんと聞いたことがないから、何が音なのかが直ぐには分からないのです。しかも、その音が何を意味するかもわからない。

私たち聞こえる人は、音に意味づけをしています。音には意味があるのです。例えば、廊下をパタパタと歩いてくる人の足音。このパタパタの足音は、きっと〇〇さんかな〜とか、玄関の鍵の開ける音がしたから、きっと誰かが帰ってきたのかなぁ〜とか。そんな風に音に意味づけをしながら生活をしています。

もし、赤ちゃんが音に気付いたら、直ぐにフィードバックしましょう。例えば、ママがお鍋の蓋を落としてしまって、それに気づいてくれたら、「気づいたね。今、ママ、しっぱ〜いしたよ。蓋を落としたよ」ともう一度、赤ちゃんの見ている前で蓋を落としてその音を聞かせてあげましょう。音と意味が結びつくように。

もし、洗濯機のガタガタの音に気づいたら、洗濯機に手を当てさせ、振動を感じさせながら、「洗濯機 ガタガタだよ〜」と、赤ちゃんがこちらを向いてくれたときに伝えましょう。

 

もし、赤ちゃんの名前をよんで振り向いてくれたら、聞こえる親御さんは「あ!やった!聞こえたんだ〜!嬉しい!」とそれだけになり、呼びっぱなしということが多々あります。そして何度も確かめてしまう。これはやめましょう。赤ちゃんに振り向き損って思わせないように。せっかく気づいて振り向いてくれたのだから、ちゃんとフィードバックしましょう。

「〇〇ちゃん、って言ったよ。よく分かったね〜!じゃぁ、抱っこしようね」など。ママがニコニコしながらそういう対応をとってくれたら、また振り向きたくなりますね。

それから、私たちのようにきこえてはいないので、しかも感音性難聴だと音がひずんで聞こえることがおおいので、(「新スクでリファーとなり、コロナで相談にいけない親御さんへ 4」の最後のURLにアクセスしてください。難聴者の聞こえについてわかりやすく説明しているページです)ママが「〇〇ちゃん」と呼んだとしても、私たちの耳には「〇〇ちゃん」と聞こえても、赤ちゃんの耳にはどんな風に聞こえたのかはわかりません。

「くみちゃ〜ん!」がもしかしたら、「ういあ〜」って聞こえてるかも知れません。なので、きちんと目を合わせて、指文字の「く」をつけたりして、視覚的にもフィードバックしてあげてくださいね。

 

そして、聞こえているのかどうかはっきりした反応が見えなくても、きちんと目を合わせて、表情、手話、音声をつけて話しかけてあげましょう。赤ちゃんの気持ちを代弁するのがいいですよ。

 

そういう対応を少なくとも半年から1年くらいは続けること。

補聴器の効果は赤ちゃんの声の出し方で見ていきます。最初は大きかった声が、だんだんと柔らかなこえに変わっていくとか、補聴器をつけると確かめるように声を出すとか、「あ〜」「う〜」だけだったのが、それが「あ〜、あ〜、あ〜」と繰り返しになったり、「あ〜、う〜」となったりしていきます。そういう風になるまでにはしばらく時間がかかります。焦らないで。

 

補聴器の設定は最初は小さめから始めます。赤ちゃんのちゃんとした聴力を分かるのには時間がかかるし、その子の発達とも大きな関係があるし、最初から大きな音で入れてしまって、本当は実はもっと聞こえていた、ということになると、赤ちゃんの耳を壊してしまうことになるからです。

 

それから、どんなときに外してしまうのかもよく観察しておいてください。外すのには赤ちゃんなりの理由があります。

生後半年過ぎると、手先の器用なお子さんでは自分から補聴器を外してしまうことがあるのです。外したとしても大慌てで対応しないこと。「ウッシッシ。これを外すとママが来るぞ〜」と思って、わざと外したりする子もいます。そして、しばらくしてからまたつけてみるように。

 

補聴器をつけたり、外したりするときには、ちゃんとお子さんに見せること。「補聴器をつけるね」「補聴器を外すよ(外したら、見せる)」

 

補聴器の試聴がまだ先のときは、焦らないこと。今できることをちゃんとやること。目を合わせて、手話と音声と表情、実物、カードなどを使って話しかける。それをちゃんとやっておくと、補聴器をつけたときに生きてきます。「あ〜!これがママの声だったの?よ〜く聞こえる!」って思ってくれますよ。

それから人工内耳を決める前に、充分、補聴器で試してみることをお勧めします。

 

またまた長くなってしまいました。なんでもメールで気軽にご相談ください。必要ならば電話していただいてもいいですよ。無料で〜す。

 

ハート&コミュニケーション 関根久美子(言語聴覚士

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