手話詩より
「聴者の母に捧げる歌」
あなたと私
異なる世界、異なることば、異なる人生の経験
あなたは聞こえる世界に育ち、ろう者を知らない
私はろうの世界に育ち、聞こえることの厚かましさを知り尽くしている
そのあなたに男児が生まれる。ろうの!
あなたのショック、私の驚き、そして喜び
あなたは子どもを自分と同じに育てたい
けれど育った彼は私と同じ
髪と目と身体はあなたと同じでも
耳と魂、ことばと世界は私と同じ
あなたの息子
でも私の仲間
彼はだれの子?
彼は木
仲間がいなければ枯れ、魂を失い、自分をなくす
けれど、あなたがいなければ木もなかった
私たちの仲間もことばも絶えてしまう
私たちが戦えばそれは鋸のように木を倒す
やめよう、手をつなぎ受け容れよう
木を育てるために、高く、天高く
この詩は エラ・マエ・レンツ という米国の女性ろう者が手話で語った詩の日本語訳です。だいぶ前にこの詩を何かの本で読み書き留めておいたものです。
以前、聞こえない子を育てている聞こえるお母さんが言っていました。下にちょっと歳の離れた兄弟が生まれる時「聞こえない兄弟が生まれますように。」って聞こえないお姉ちゃんはお願いしていたそう。本当に聞こえない兄弟が生まれて、お姉ちゃんは大喜びだった、とのこと。
聞こえる親から聞こえない子が生まれる。そしてそこから聞こえない世界へ続く枝葉が脈々と伸びていく。