『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

ヴァンサンへの手紙

ヴァンサンへの手紙 J’avancerai vers toi avec les yeux d’un sourd

 

皆さん、「ヴァンサンへの手紙」という映画をもうご覧になりました? フランス語のタイトルは「ろう者の視点であなたに近づく」というものです。まだ、ご覧になられていない方はご覧になってみてください。考えさせられます。

 

この映画を観て、どこの国でも同じ事情なんだな、と思いました。ドレペ神父が初めて手話で教育を始めたフランスも、ミラノ宣言の後は口話教育になり、100年もの間、手話が禁止されてきました。

私は、以前、ろう難聴教育研究会の当時の会長である、伊藤政雄先生の講演を聞いたことがあります。強烈に印象に残った話は、口話教育が始まった当日、いきなり大きな壁が学校にできていて、壁の向こう側の様子が見られなくなっていた、とおっしゃっていました。これから入ってくる生徒は口話教育だから、手話をやっているこちら側の様子を見せてはいけないということだったそうです。手話をやっている様子を見たら、羨ましがるだろうからと。

 

映画の中には、様々な聞こえない人が出てきていました。

口話教育のみで育てられ、口話も中途半端。手話もできない。親から離れて生活ができない、自立ができない聞こえない人。物事を深められる思考が育っていなく、単純な思考でしか考えられない聞こえない人。

 

発音練習に明け暮れ、親子関係まで破綻し、「親は私が聞こえないことを、受け入れてくれなかった」と言う ろう者。

 

聴覚障害者>を作り出しているのは、聞こえる人なのだな、とも思いました。映画のコメントに、耳鼻咽喉科医の平野先生が「人工内耳推進派の耳鼻咽喉科医に観てもらいたい」と書いていました。こういう考えのお医者さんが少数派でもいらっしゃることが救いです。聞こえる人に近づけようとさせられる教育に、そして、聞こえない人たちが歩んできた、辛い歴史に、その中で自分たちの言語である手話を仲間とともに守り抜いていたろう者たちの強さに、胸が張り裂けそうでした。

 

映画を観て、私が今携わっている仕事の大切さ、重責を再確認しました。

やはり、ろう教育の原点である乳幼児教育相談が大事ですね。その時に、どんな支援を聞こえる親御さんに行うか。それが、聞こえない子どもとその両親のそれ以降の運命を決めると言っても過言はありませんね。

0歳児で来室された時に、聞こえる親たちに、きちんと聞こえない障害を理解してもらい、健全な親子関係を育てる支援を行うこと。聞こえる親が聞こえない子に寄り添い、ありのままの子どもと向き合い、楽しく子育てができるように支援すること。その重責を抱え、聞こえる世界と聞こえない世界の橋渡しの支援をしていこうと、そういうSTになろうと再確認しました。

 

ある聞こえないお母さんがこのような手記を寄せてくださいました。もしかしたら、このブログを読んでくださっているかも。大変感動したので、載せます。

「ろうの子どもたちはみんな、自分の子どものように本当に可愛いと私は思っています。その想いは私だけでなく、ろうのお母さんなら少なからず、同じような想いは持っているはずです。子どもたちは小さな手で、懸命にお母さんに何かを伝えようとしている。お母さんもお母さんなりに自分の知っている手話で何とか応えようとしている。我が子のありのままの姿をきちんと受け止めようと頑張っている聴者のお母さん方には、もう本当に、感謝の言葉しかありません。」

 

ヴィクトル・ユゴーのことばも胸に迫りました。ユゴーは、ろう者の集まりに度々足を運んでいたようです。

「心で聴くなら、耳が聞こえないことなど何の問題であろうか?問題なのは、聴くことができない心である。」

 

 

 

ハート&コミュニケーション

http://kotoba-heart.com

 

うちのワンコ。「これ、全部ぼくの〜」って言っている。

 

 



 

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