『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

相手と通じ合う楽しさとコミュニケーション意欲

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

随分久しぶりの投稿になります。

 

色々なお母さんとお子さんのお話から。

そのお子さんは人工内耳をしています。だんだんと音声も出てくるようになりました。上の子も聞こえない子なので、お母さんは下の子が生まれて直ぐから手話と音声で話しかけています。

病院へ定期検診に行くと、「最近、どんな言葉を言いますか?」と「言葉」のことについて訊かれるそうです。お母さんは「飛行機と表出します」と伝えると、「え!飛行機ですか!」とお医者さんとS Tが驚嘆するので、その後お母さんがサラッと「手話で飛行機って言います」と伝えると、「手話かぁ〜」と急にガッカリしたように言われるとのこと。それに対してそのお母さんは怒っていました。

 

私は聞こえない・聞こえにくい子ども達には、たとえ聴力の程度が軽度であっても重度であっても、手話が必要であると考えています。0歳児の頃から手話を使って育てられた聞こえない・聞こえにくい子ども達の言語発達は(発達に問題がない聴覚障害児の場合)健常児と言われている子ども達と同様に発達していきます。手話で確実なコミュニケーションをとっているため、知識や情報は確実に伝わります。この聴覚障害という障害が他の障害と決定的に違うのは、当たり前なのですが、聴覚に問題があるということ。聞こえる子と同じコミュニケーション体験では曖昧にしか伝わらず不十分なのです。

聞こえない・聞こえにくい子ども達が手話で「飛行機」と表出できるまでには、健聴児の子ども達が音声で「飛行機」と言えるまでと同様の過程を辿ります。飛行機のイメージがたくさんその子の中に育ち、そこに「飛行機」がなくても「飛行機」を「言葉」でイメージできるようになる。つまりlauguageの育ちがそこにあるわけです。

 

聴力の程度にかかわらず、皆、最初出てくる言葉は「手話」です。その後、聴力が使えるお子さんは音声言語で言えるようになっていきます。

「手話を入れると音声言語で喋らなくなってしまいますか?」と先日も訊かれました。いいえ、そんなことはありません。その証拠としてあるお子さん(聞こえる子)のお話をしましょう。

 

そのお子さんは聴覚障害はなかったのですが、発達に遅れがあり、私が会ったときは4歳。4歳になってもおしゃべりができませんでした。お母さんと相談し、簡単な手話や写真カードを取り入れていくことになりました。そのお母さんも最初は「手話を入れると音声言語がもっと出にくくなるのではないですか?」と心配されていました。でも、そんなことはないこと。むしろ、通じるという経験が成立しやすくなるので、コミュニケーションの意欲を向上させ促すことを伝えました。

その子は簡単な指示を理解して行動することができていました。ただ、その子からの表出の手段がなく、きっと苦しい想いをしているだろう、ということが容易に想像できました。

手話や写真カードを取り入れると、簡単な手話は直ぐに覚えて使うようになりましたし、写真カードもその子の「言葉」となり、案の定、相手に通じるという経験はその子のコミュニケーションの意欲を向上させていきました。そして5歳になったときから、急に音声言語を喋り出したのです。その後、あれよあれよという間にペラペラになり、今では意思疎通は十分取れるようになりました。他にも何人もそういうお子さんがいます。

 

そうそう、大事なのは相手と通じるという経験。それがコミュニケーションの意欲を向上させるのですね。聞こえない・聞こえにくい子ども達も同じです。音声言語のみにしがみついていたら、通じるという経験やコミュニケーションの意欲が十分に育たない。コミュニケーションの楽しさが実感できない。

 

子どもが手話で「飛行機」とやり、それをキャッチしたお母さんが「本当だ!飛行機が飛んでるね」と手話と音声言語で返す。そして二人で顔を見合わせて笑い合う。コミュニケーションは相手がキャッチできて初めて成立します。お母さんに通じたという経験が意欲を向上させ、もっと話したいという気持ちを育てていきます。聞こえない・聞こえにくいのだから、音声言語は曖昧にしか届かないし、ちゃんとキャッチできているかもわからない。そんなコミュニケーションが普通になってしまったら、どうなるのでしょう。

 

先日、聞こえにくい1歳の子が個別相談にお母さんと一緒にやってきました。

お母さんは私との相談の時も、頑張って覚えたての手話を音声とともに表します。その会話の中に天気の話が出てきました。私と二人で天気の話をしていると、その様子をちょっと離れたところで見ていたその子が、教室の窓の外を指差し、「晴れ!」と手話でやったのですよ!これにはビックリ!1歳でちゃんと大人の会話に入ってこれていました。すごいですよね。

 

 

関根久美子(言語聴覚士

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