『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

唯一の存在

以前、なにかの勉強会で聞いたお話。

昔、ヨーロッパの王様(多分、フリードリヒ大王)がこんな研究をしたそうです。生まれたばかりの赤ちゃんを十数名集め、親元から離してお城で召使いに育てさせたそうです。その赤ちゃん達と親御さん達には本当に気の毒だったのですが、研究熱心な王様は、<一言も話しかけないで育てたら、赤ちゃんの言語発達はどうなるのか?>を調べたかったそうで、とにかく一言も話しかけない、淡々と必要な世話だけする、愛情表現をしない、目を合わせない、スキンシップもしない、を世話係に徹底させ、赤ちゃん達を育てさせ報告させたそうです。赤ちゃん達どうなったと思います? 言語発達の研究どころか、数名を残して全員が亡くなってしまったそうです。

びっくりしてしまう研究ですが、大切なことが明確になっています。とにかく、愛情をかけてもらう、ということが人間の赤ちゃんには必要なこと。淡々と必要最低限な世話だけをすれば良いのかと言うと、そうではないこと。これは、人間だけでなく、動物もそうですね。うちのワンコやニャンコを見ていてもそう思います。愛情をかけてもらうことで、自分はこの世の中に唯一の存在であることを知っていくのでしょう。

私は縁があり、聞こえない・聞こえにくい子ども達や、発達に問題がある子ども達やその親御さんと関わる仕事をしています。その親御さん達に、お子さんとのより良いコミュニケーションを取るための関わり方についてお伝えし、できる限りお子さんの代弁者となり、親御さんにお子さんの特性などについてできる限りお話をし、より良い親子関係が築けるようにと思っています。

でも、私が伝えようとしていることは、それは発達に問題がある・ない、聞こえに問題がある・ない、に関わらず、全ての親に知って欲しいことでもあるのです。どんな風に子どもに接すれば良いのか。どんな風に語りかければ良いのか。そういう子育ての基本。

それに、ちょっといろいろとあってコミュニケーションを取るのが難しいお子さんには、こちらが寄り添うしかないのですものね。

今日も新しい出会いがありました。色んな背景を抱えているお子さんに出会いますが、皆、唯一の存在。そんな尊い存在であるお子さん達の代弁者として、自分のことを説明できないお子さん達に代わって親御さんに理解していただけるようお伝えしました。来室した時は暗〜い感じだったけれど、帰るときには3人で手をつなぎながら帰る後ろ姿を見て安心しました。良かった!

庭のプラムの木に初めて実がなりました。小さいけれど、発見したときはすっごく嬉しくて身震いしました! どれだかわかります?真ん中の小さな緑の実です。

 

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発達には順序がある!

<発達には順序がある。> このことを理解していただけるといいのになぁ〜、そうすれば親子ともどももっと楽に過ごせるのになぁ〜、と思うことがあります。どうしたら理解していただけるのかな、といつも試行錯誤で親御さんにお子さんのことをもっと理解していただけるように話をするのですが、なかなか難しい時もあります。

<発達には順序があり、その子その子のペースがある>

例えば、まだ指差しも上手にできていない子に音声言語での表出を求めることはやはり難しい。親として焦る気持ちは理解できるのですが、王道はありません。日々できることを家庭でも取り入れて少しずつやってみる。療育施設に通ってそこでやってもらえばそれで済む、というスタンスではなかなか難しい。療育施設でやっていることを、家庭での生活の中でどのように取り入れていけば良いのかを聞き、できるところは取り入れてみる。今日はこの療育、明日はこの施設でお勉強、毎日毎日さまざまな施設に親子で通い、そこで数時間程度のセラピーを受ける、ということを繰り返してみても、その他の時間は家庭で親子で過ごすのだから、やっぱり家庭でどんな風に生活するのかが大事だと思うのです。

 

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どこどこ? 

 昨日に引き続き、今日も!

 ことばの相談に来ている男の子。ママが作った私の写真カードを来る前に見せてきたとのこと。さすがママ!その写真を見せると私に差し出してきました。ちゃんと分かってる!

 彼は大好きなアンパンマンの人形を持ってきました。そのアンパンマンの人形を目の前で私が座布団の下に隠して、「あれ?アンパンマンは?どこ?」とすると、ニコニコしながらその座布団をめくりました。「あった!」その遊びが気に入ったのか、自分でも座布団の下に隠そうとしています。本格的な<どこどこ遊び>をすることにしました。ママと一緒に私の様子を見ていてもらって、私が見えないところでアンパンマンを落とす。そして、親子の方へ戻って「あれ?ない。アンパンマンないよ。アンパンマン、どこどこ?探して!」 最初は大事なアンパンマンをどうするの〜!とパニックになっていたけれど、ルールが分かると大喜び。ママと一緒にアンパンマンを見つけて、「あった!アンパンマン、あった!良かった〜!」何度も何度も繰り返し、自分でも真似して隠そうとしたり、大笑い。

 

 アンパンマンだけでなく赤い風船でも挑戦。庭に出て、私が庭のどこかに隠した赤い風船をママと一緒に探してもらう。「赤い風船、どこ?どこ?探して〜。どこ?」「あった!あった!見〜つけた!良かった!」大人からするとかなり単純な遊び。だけれど、この中にはたくさんの大事なことが含まれています。

 

 <そこにない、けれど ある> これは記憶の力とも関わってきます。隠されたアンパンマンの人形や赤い風船のことを覚えていなくてはできない遊びです。他のことに気がそれてしまったらできない遊びです。そして実は言葉の力にも通じています。言葉には<そこにない ことを 言葉にして伝えることができる> そういう力があります。

 子どもが喜ぶ遊びの中に、たくさんの大事なことが隠されているのですね。子どもが喜んでくれた遊びはぜひ、繰り返し、繰り返し、飽きるまで付き合ってあげましょう。

 そして、繰り返し繰り返しの遊びの中で、繰り返し繰り返しことばかけができます。「探す」ということはどんなことか、「どこ?」ってどういう時に使うことばなのか、実体験の中で身につきますね。

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母ってすごいなぁ! その2

 1年前のブログにも同じ題名で書きました。今年も!

 お子さんが聞こえない・聞こえにくいと分かってから、ろう学校の乳幼児教育相談に通った親御さん達を集めて今年度のお話の会を開きました。

 テーマは生まれてから今までのこと、子どもとのコミュニケーションで大事にしてきたこと、子どもとの生活習慣で大事にしてきたこと、そして、自分の中での変化について。

 不思議なことに、聞こえない・聞こえにくい子は90%が聞こえるご両親から生まれてきます。親御さんの大半は聞こえない・聞こえにくい方との接触がそれまでなかったという人生を歩んでこられたため、たくさんの不安と心配を抱えて相談にいらっしゃいます。

 相談にいらっしゃり、聞こえない・聞こえにくいということはどういうことか、どんな風にコミュニケーションを取っていけば良いのかを学び、実際に聞こえない方と会ったり、グループ活動で皆で話し合いをしたりするうちに、その不安はだんだんと薄らいでいくようです。

 <親として楽ではない人生を歩むことになりましたが、不思議と充実感があります。そして、頑張り続けていれば、親として、豊かな人生になるだろうな、という期待感があります。>

 <聞こえない、というアイデンティティーを持った子どもに育てたい。>

 <聞こえない・聞こえにくい子どもも、聞こえる子どもと同じ子どもなんだな、ということが本当に当たり前で恥ずかしいのですが、改めてそう思えました。>

 <相談に初めて来た時に、暗い顔をしているのは私だけ?と思うくらい、みんな楽しそうに親子の時間を過ごしていて、そこには手話があり、音声に頼らなくてもきちんと意思疎通が図れている世界が広がっていた。>

 <生まれてくれて、私の世界を広げ、深めてくれて、ありがとう。>

 深く、重い、お一人お一人のことば。母ってすごいなぁ!皆さんとの出会いに感謝。ありがとうございました。そして、いつまでも応援しています!

 

これは庭のプラムの木。可愛い花が咲きました。

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分かる事柄、分かることば、そして意欲!

今日は柔らかい日差しが気持ち良いですね。草木も一斉に新芽を出し始め、たくさんのエネルギーを感じます。

 

昨日はろう学校の卒園式。赤ちゃんの時に来室した子ども達が立派なお兄さん、お姉さんになった姿に感激しました。

 

さて、今日は前回の発達に引き続き、ピラミッドの一番上の<ことば>についてのお話をします。お子さんのことばの相談でいらっしゃる親御さんの主訴で一番多いのは、ことばが出てこないこと。全体発達の一部であることばの発達。ことばを表出するまでになるには、どんな力がお子さんの中に育つ必要があるのでしょう。

 

まず、分かる事柄がたくさんその子の中に貯まっていく必要があります。帽子を渡すと頭にかぶってみる。コップを渡すと飲もうとする。靴を見せると履こうとする。歯ブラシを渡すと口に加えてみる。その分かる事柄がベースとなり、理解できることばが育ちます。「ジュースを飲もう」と伝えると、コップを持ってくる。「お出かけするよ。靴を履こうね。」と伝えると、玄関に行って靴を探そうとする。「帽子をかぶって」と伝えると、帽子をかぶろうとする。ことばが表出できるようになるまでに、理解できることばがたくさんその子の中に貯まっていく必要があります。

 

私たちはとかく表面に現れたことについてのみ評価してしまいますが、その下に埋まっているものを大事にみていく必要があります。

 

ことばは全体発達の一部。前回お話したように、ことばの育ちは、身体の育ち、心の育ち、知力の育ちがベースとなります。大好きなママに伝えたい。大好きなパパに伝えたい。大好きな人と気持ちを共感し合いたい、分かってもらいたい、という<心>がお子さんの中に育つことが大切。それが、コミュニケーションの意欲となるのです。

 

中東の料理、フムスを作ってみました。今まで、フムスは日本では作れないなぁ、と思っていたのですが、試しに市販のひよこ豆の缶詰と練り白ゴマで作ったところ、あら!すっごく美味しい!

ひよこ豆2缶、オリーブ油(大さじ3)、レモン汁(1個分)、練りゴマ(大さじ3)、にんにくペースト(大さじ1)、をミキサーにかけるだけ。塩、胡椒で味を整えて、出来上がり。ピタにつけていただきます。ベ・テアボン!

 

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ことばは全体発達の一部

  今日はとても良いお天気ですね!

  以前もこのブログで書いた覚えがあるのですが、大事なことなのでもう一度。

 皆さん「お子さんのことばが遅れていて心配」、とのことで相談にいらっしゃいます。ことばは全体発達の一部なので、ことばだけが遅れているということってないのです。

 ことばの発達はピラミッドの頂点にあたり、ことばの発達の土台をつくっているのが<身体の発達>。私たちは生まれた瞬間から重力と戦っています。寝返りを打てるようになり、お座りができ、立ち上がれる。これはすべて重力に逆らう力が育つから獲得できることになります。やっぱり身体が資本なのです。そのために大切な身体作り。よく食べて、よく寝ること。規則正しい生活をすること。規則正しい生活をすることで脳も覚醒します。身体の発達に合わせた充分な運動も大切。

 そして、その上に乗ってくるのが<心の発達>。ママが好き、パパが好き、という気持ちが育つこと。これはコミュニケーションの発達の基礎になります。

 その上に乗ってくるのは<知力>。見て考える力や手先の力。以前、ピアジェの「知性の誕生」という本を読んでみました。ピアジェの子ども達の生まれた時からの観察記録なのですが、内容は目と手の使い方でした!

 身体の発達、心の発達、知力の発達を土台とし、一番上にやっとことばの発達。

 

 なので、ことばの力を大きく育てたいのならば、その下の部分を大きく育てていくという視点も大事になってきます。ことばへのアプローチだけでなく、ことばの発達を支えている下の部分の発達にもアプローチしていく。大事なことです。

 

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うちの息子に構ってもらって、なんだか大喜びのうちのワンコ。

 

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声に引きずられないように

聞こえにくいお子さんと接している時に気をつけていること。自分に言い聞かせていること。それは、声に引きずられない、ということ。これは私たち聞こえる人間にとっては本当に難しいことです。聞こえる人間はどうしても声に引きずられてしまいがちです。

 

「おうちに帰るよ。お片づけをして。」という音声での話しかけに、お片づけをし始める聞こえにくいお子さん。一見すると音声での話しかけに反応し、理解し、行動しているように思えます。でも、本当にそうでしょうか?ことばでの理解ではなく、何となく状況判断で行動している可能性もあります。

 

 聞こえる集団に入っている聞こえにくいお子さん。先生は「他の子と変わりなく生活しています。」と言います。でも、本当にそうでしょうか?

 

 聞こえない・聞こえにくい子は目の子。上手に他の子の様子を見て同じように行動できてしまうので、一見するとうまくやっているように見えるかも知れません。でも、それが落とし穴。目で見て真似して行動する。それは映像のみであり、ことばできちんと理解して行動している訳ではありません。そんな状況がずっと続いてしまったら一体どういうことになるのでしょう。

 

 聞こえにくいという障害は目に見えない障害です。音声言語での聞き取りは常に曖昧であり、私たち聞こえる人間のように聞こえているわけではありません。雑音があるこの世界ではより一層聞き取りは難しいでしょう。

 

 聞こえない・聞こえにくい子が音声言語に反応したとしても、音声言語で言い表してくれたとしても、それに引きずられないように気をつける。きちんとアイコンタクトをして視覚的な補助などを使いながら話しかける。

 

 聞こえにくい子がお話ができるようになると、聞こえる人間はその子の聞こえにくさをついつい忘れてしまう。そういうことがないように。

 

ことばの相談室 ハート&コミュニケーション

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