『ことばの相談室』徒然

ことばやコミュニケーションについて心配や気になること、お子さんに聞こえの問題があり子育てに不安がある、発達全般について心配がある・・・などなど、国家資格を有するカウンセリングサロンです

聞こえない方からのメッセージ・今回のコロナで思った事

先日、以下のようなメールが届きました。この方はろう学校の乳幼児教育相談でのお仕事をされている聞こえない方です。

 

〜メール全文〜

少しでも口話・読話が長い目で見ると限界があることを多くの人に知っていただけると嬉しいです。

乳幼児教育相談での教育が、ろう者の生活における大事な土台を造っているな、と今回の新型コロナウイルスでの生活の変化を通して、改めて感じました。その理由を2つ挙げます。

 

まず、1つ目はマスク着用でのコミュニケーション方法についてです。

新型コロナウイルスを受けて、生活必需品を取り扱うお店などの店員がマスク着用するようになりました。マスク着用していなかったころは、聴者と同じくらい完璧ではないが、どうにかして口話・読話でのコミュニケーションができた聴覚障がい者もいたかもしれません。ですが、現在は接触・飛沫による感染拡大の危険性もあるためにマスクを外すことはできません。その変化に伴い、コミュニケーションしづらいといった悩みがNHK「ろう生きる難聴を生きる」にも多く寄せられていたことが見られました。そこから考えられることは、いくら口話や読話を焦点に訓練を受けても実際の生活には限界があるということです。

マスク着用した状態で、まず自分が聞こえないことを相手に伝えたうえで筆談(使う紙やペンなどは一緒にしないという工夫も必要ですが)や手話、身振りなど臨機応変に使いながらコミュニケーションをする力があれば、お互いの健康を守ることにもなり、口話・読話よりも確実に情報を得られます。その力を身につけるためには、やはり幼いころから自分が聞こえないということを自然であること、また視覚的に確実なコミュニケーションを図ることができる環境にいるかどうかで差がつくと私は考えます。親御さんが早い段階でお子さんの「聞こえないこと」を理解できたり、成人ろう者のロールモデルと関わったり、同じ境遇の人と集まって話したりすることができる環境、つまり乳幼児教育相談の場がいかに重要か考えさせられます。

 

2つ目は新型コロナウイルス関連の情報を書記日本語で正しく理解する力についてです。連日ニュースなどで新型コロナウイルス関連の報道がされており、「クラスター」や「オーバーシュート」、「ロックダウン」など普段目にしないような言葉も出てきました。そういった用語の内容などを把握しないと、感染の危険性や健康管理方法などの知識が得られません。今回のような新たな非常事態が起きても、自分で判断して行動をし、自らを守ることができるようにするためには、日本語の読解力が必要です。書記日本語習得においても、手話と絵・写真、文字をマッピングしながら語彙を増やしたり、家族と手話でコミュニケーションを通して視覚的に情報を得たりする、などやはり乳幼児期で積み重ねることが重要ではないかと思います。

 

上記の2点にしたがって、口話や読話に頼った生活をすると、今回のようなコロナによる生活様式の変化に対応するのは難しいと思います。マスクで聞こえづらい、読話ができない、難しい情報が多すぎて理解できない、という悩みが起きる前の早いうちから、自分がろう者であることを伝えられる力、聴者を相手に分かりやすく手話・身振り・筆談などでコミュニケーションする力を身につけるかどうかが大切です。乳幼児期はそういった基盤を築ける重要な時期であると今回改めて考えさせられました。

 

ハート&コミュニケーション 関根久美子

Kotoba-heart.com

 

この写真はフランスのストラスブール大聖堂。私はこの街に長いこと住んでいました。このメッセージを寄せてくださった先生が、昨年行かれたそう。パリで世界ろう者大会があったそうで、立ち寄ったのですって。

 

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